熊本の麺料理というと、とんこつスープにニンニク油を浮かべた熊本ラーメンをまず思い浮かべるだろう。しかし、同系のラーメンは久留米をルーツに広く九州に広がるラーメンの1スタイルともいえるだろう。その意味で、より熊本らしい麺料理といえるのが、太平燕(タイピーエン)だ。
![「紅蘭亭」のタイピーエン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/480743fe45a439ffe4dd67080e8f128d.jpg)
あっさりスープにたっぷりの野菜、エビやイカなどの海鮮に豚肉も加わる。一見するとチャンポンにそっくりだが、その最大の特徴は、麺に春雨を使っている点。揚げたゆで卵もタイピーエン特有のアイコンだ。ルーツは、中国福建省の郷土料理といわれる。日本の食材に置き換え、アレンジされたとのこと。九州の華僑たちにとって汁入りの春雨は定番料理の一つで、家庭などで広く食べられていたが、時がたつにつれ、次第に食べられなくなり、熊本に残ったという。
![麺は春雨](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/a8b943d5ec947dc956622fb683e1b287.jpg)
九州各地で食べられていたタイピーエンを、熊本名物にしたのは、中心市街地にある「紅蘭亭」だ。創業は1934(昭和9)年。創業当時からタイピーエンを提供、特に女性の人気が高く、看板メニューとして定着したという。
![地位新市街地に位置する「紅蘭亭」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/0f6512277a0f4a4af9ff3edf9719ef6c.jpg)
スープは、豚骨と鶏ガラを煮出したもの。まず肉と魚介類を炒め、臭み取りの酒を入れる。そこに野菜などを加えて炒めてから、スープを入れ、塩を加えて煮立たせる。「紅蘭亭」では、福建省で作られた天日干しの天然塩にこだわる。
![タイピーエンは具だくさん](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/89c16a378e8a669c4243df7a28fce95c.jpg)
春雨は、この時点で鍋に入れて煮込みむ。十分にスープを吸ってしんなりしたら、先に器に盛る。残ったスープと具にごま油やコショウを加えるなどして味を調える。出来上がった具とスープを先に盛った春雨に注ぎ入れる。
![澄んだスープにはコショウが浮く](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/f369442a0dc63b304221fea28f4f8f6a.jpg)
トッピングには、虎皮蛋(フーヒータン)、揚げ卵が不可欠だ。ヘルシーな春雨、あっさりしたスープには、ただのゆで卵ではなく、揚げた卵を乗せることで、コクが加わる。
![揚げ卵があっさり味にパンチを加える](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/33108070a95d3fbe428f7e2cc292a755.jpg)
「紅蘭亭」は、いわゆる「町中華」ではなく、ハレの日のお店だ。店頭にはドアマンが立ち、恭しくテーブルに案内される。店内の調度も、一見して高級店だ。澄んだスープにも高級感が漂う。
![「紅蘭亭」と並ぶタイピーエンの老舗「会楽園」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/c67f058fec364091afa66ed06ba59194.jpg)
春雨はつるつるとして食べやすい。食感も軽く、いかにもヘルシーだ。具も野菜が多く、女性に人気が高いのもうなづける。
![「駅そば」のタイピーエン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/5629d91e04ea70f791e641c3d0b3cb3d.jpg)
熊本では給食でも食べられるというタイピーエン。JR熊本駅構内にある、いわるゆる「駅そば」にもタイピーエンがあった。カウンター越しに見る調理法はちゃんぽんそのものだ。ただし、春雨は干したままではなく、すでに加水済みのものだった。
![卵はウズラだった](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/8b33676e44c5c893fffedfaa1d36bb87.jpg)
やや白濁したスープは、しょうゆが加えられているのだろうか、透明度が低い。こってり感も含めて、ラーメンスープに近い舌ざわりだ。「紅蘭亭」の高級感に対し、庶民的な味わいになっていた。卵も揚げ卵ではなく、ゆでたウズラの卵だった。
![東京で食べられるタイピーエン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/06/7d4bfbc9dfcefbd653ceeadb6aa8c2c2.jpg)
東京でもタイピーエンは食べられる。浜松町にある「中国酒家 貘」の定番メニューだ。もちろん、機会があれば、熊本を訪れて味わってほしい。