東京都墨田区両国は日本国技館があるまち。かつては、相撲部屋も両国付近に多く立地していたことから、体格のいい人向けの洋服屋や力士の食事であるちゃんこ鍋を出す店が多い。大人数が一度に食べる、しかも大食いの力士たちの食事だけに、一度に大量の調理が可能になっている点が特徴だ。肉や野菜、魚介類などさまざまな食材を用いることで、良いだしが出て、具材に味が染み込み、栄養価の高いおいしい鍋になる。

力士は太っているイメージが強いが、そもそもはアスリート。強い力士になるためには体重だけでなく、強じんな肉体、筋肉をつける必要もある。体作りのための食なので、鍋自体は実はとてもヘルシーだ。高タンパクで野菜もたっぷり入っている。また明治維新までは、四足歩行の肉を使うことを避けていたこともあり、現在でも手をつくことが負けるイメージに繋がることから、鶏肉など牛や豚の肉を避けて縁起を担ぐことも多いという。

実際に両国を訪れて、ちゃんこ鍋を食べてみることにしよう。鍋料理というと夕食のイメージが強いが、JR総武線両国駅周辺の専門店では、ランチタイムからちゃんこ鍋を提供している。まず向かったのは、駅前にある「ちゃんこ江戸沢両国総本店別館」だ。ここでもランチタイムからちゃんこ鍋を堪能できる。

注文したのは肉ちゃんこ鍋定食。スープは秘伝の鶏ソップだ。痩せた力士は「ソップ型」と呼ばれており、だしとなる鶏ガラのように骨が浮いていたことから、鶏ガラだしで作るちゃんこ鍋をソップ炊きと呼ぶのだそうだ。ていねいに鶏ガラを煮込んでスープを作ることで、旨味を凝縮した、家庭では味わえない本場の味になるという。味付けはしょうゆだ。

肉は前述の通り、縁起を担いで鶏肉だ。根菜や葉物などたっぷりの野菜、豆腐などとともにソップに浸し、時間を掛けてゆっくりと炊いていく。肉も大ぶりなので、火が通るまでには結構時間が掛かる。十分に火が通ったら小鉢によそっていただく。まずはスープからだ。

何よりもこのスープがとても美味しい。どこか東京ラーメンにも似たあっさりと、それでいて鶏ガラのだしがしっかり染み出ているスープだ。ライトな鶏肉と相まって、全体の印象は非常にすっきりした味わいだ。だしに加え鶏肉や野菜からも、さらに味が染み出している。力士の体格からは想像もできないほど軽く、ヘルシーな味わいだ。

続いて訪れたのは、やはり駅前、「ちゃんこ江戸沢両国総本店別館」の並びにある「安美両国総本店」だ。ランチ定食は、海鮮ちゃんこ、肉ちゃんこ、二色つみれちゃんこのいずれか、さらに味付けもしょうゆ、塩、味噌から選べる。注文したのは、味噌味の二色つみれちゃんこだ。

やはりだしはソップ。味噌味だがさほど濃厚ではない。そもそものだしの味をしっかり残した味付けだ。ちなみに「ちゃんこ江戸沢両国総本店別館」が固形燃料でやや加熱に時間が掛かったのに対し、「安美両国総本店」はカセット式のガスコンロを使用。その分沸騰するまでの時間は短かった。

二色のつみれとは、いわしのつみれと鶏軟骨のつみれ。いわしの濃厚な味わいと鶏軟骨のコリコリとして、それでいてさっぱりとした味わいが好対照だ。野菜もまずはたっぷりとモヤシがトッピングされている。さらにはささがきごぼうやキャベツ、にらなども入っており、野菜のバリエーションが豊かだ。

その豊かな味わいが、スープの味をより膨らませている。味噌ラーメンの脂ギッシュな味わいとは好対照のライトな味わいだ。それが、ご飯にもよく合う。美味しいスープなので、お行儀が悪いが、最後はご飯に掛けてスープかけ飯にしていただいた。幸福な味だ。

あちこち両国のちゃんこ屋を覗いてみると、汁はしょうゆ味が多いようだ。食べ終えて「安美両国総本店」のメニューを見ると「元祖ソップ炊きちゃんこ【鶏ガラ塩】」とある。だしがいいだけに塩味が試したくなった。別途日を改めて、夕食に食べることにした。

元祖ソップ炊きちゃんこはいかにも塩味と分かる透明なスープが特徴だ。見た目にはニラの緑がいいアクセントになっている。蓋をして沸騰してきたら食べ頃という。まずはスープから。あっさりとしつつも実に味わい深い。塩だけの味付けだけに、だしの味がくっきりと浮かび上がる。

そんな上品なスープをしっかりと吸い込んだ、白菜の根元、白い部分がとてもおいしい。噛みしめると、じゅわっとだしが染み出してくる。昼同様、つみれの軟骨の食感やささがきのごぼうのしっかりした歯触りとソフトな豆腐の歯触りのコントラストもいい。舌はもちろん、歯からも美味しさが伝わってくる。

最後に変化球も試してみよう。何店舗かのメニューでカレーちゃんこを見かけたが、ここは坦々ちゃんこにトライしてみた。胡麻がたっぷり入った、まさに担々麺のスープで作るちゃんこ鍋だ。モヤシたっぷりにメンマも入って、かなりラーメンを意識している。チャーシューまで入っていた。最後、中華麺で締めたかったが、さすがにお腹いっぱいになってしまった。

両国に限らず、東京では、ちゃんこ鍋があちこちで食べられる。しかし、両国はとにかくちゃんこ鍋屋が多い。競争も激しいし、相撲部屋の味を再現する店も多い。せっかくちゃんこ鍋を食べるなら、両国まで出かけてみるのも一興だろう。ただし、場所中は混雑するので、大相撲が開催されていない時期に訪れるのがベストだろう。




