千葉県流山市は、みりんの産地として名高い。江戸時代以前は、液体調味料は陸路での大量輸送が難しいことから、みりんの流山を始め、しょうゆの野田・銚子、酢の半田など、水運に恵まれた土地で製造されることが多かった。もちろん、原料調達の面でも水運が有効だったことは言うまでもない。

流山では、明治以降も1890(明治23)年には利根川と江戸川を結ぶ日本初の西洋式運河である利根運河も開通し、水運の大動脈としてさらに発展する。しかし、1898(明治31)年に、流山を避ける形で常磐線が開通すると、一気にそのにぎわいを失ってしまう。都心へ直通する鉄道がないため、都心から25キロ圏内にもかかわらず、戦後の宅地開発からも取り残され、江戸時代以来の「みりんのまち」がそのままに残っていた。

そんな流山に2005年、都心につながるつくばエクスプレス(TX)が開通、流山おおたかの森駅周辺が最新トレンドの住宅地として、人口増加率が茨城県つくば市と並び全国でもトップクラスを記録するほどにまで人気を高めた。そんな中、まちのシンボルである白みりんの魅力発信と旧市街地である流山本町の回遊促進、住民の郷土愛の醸成などを目的に白みりんミュージアムが2025年に開館した。

ミュージアムは、流山本町の古い商家に多く使われていた黒漆喰をイメージした黒い壁に瓦ぶきの屋根、木質感あふれる施設で、歴史あるつくり酒屋をイメージしたという。館内では、流山本町や白みりんの歴史を学びながら、昔ながらのもろみ仕込みのバーチャル体験、バーチャル工場見学、ゲーム感覚で学べるアトラクションなどの展示も楽しめる。

さらに、宅地化から取り残されたことによって、ミュージアムの周辺にはみりん工場を始め古い建物が数多く残っている。区画整理が進んでいないため、多少歩きにくい面もあるが、かつてみりん輸送に使われた引き込み線の線路跡がそのまま残されていたりと「みりんのまち」を肌で感じるには格好の町並みになっている。まちの随所に案内板を設置し、工場の壁に写真を展示するなど、まち全体を観光として楽しめるよう、様々な工夫が凝らされている。

何より興味深いのは、みりんの成り立ちだ。同じ調味料ながらしょうゆや酢、味噌とは明らかに立ち位置が違う。しょうゆや味噌は塩味、酢は酸味が特徴だが、みりんは料理全体の味を支配するほどの味の強さはない。強いて言えば甘さだが、砂糖に比べれば優しい甘さだ。味よりもむしろ照りや艶といった見た目に大きく作用する調味料と言える。

そもそもみりんは、米と米麹を使い、焼酎または醸造用アルコール中で米のでんぷんを糖に分解させて作るもの。ちなみに本みりんのアルコール度数は日本酒など醸造酒に近い13%あり酒税も掛かるが、みりん風調味料はアルコール分1%未満で、水あめや糖類で作るものだ。

展示によれば、そもそもみりんは酒の一種として飲まれていたという。特にその甘さから、女性やあまりお酒が飲めない人が好んで飲んだと言われている。甘い物が貴重だった時代だけに、みりんに焼酎を加えて、飲みやすくした「本直し」「柳陰」と呼ばれる甘く口当たりの良い酒は落語の中にも登場する。ちなみにみりんの色は当時、やや赤みがかっていた。

流山は、本来酒造のまちだった。しかし元禄年間になると、町人文化が栄え、日本酒の消費量が急増、大量の樽酒が上方から江戸へ出荷されるようになる。ピンチに陥った流山の酒蔵が目を付けたのがみりんだった。日本酒の醸造技術を元に、みりんを飲むものから、調味料の側面を前面に押し出すようになる。1814(文化11)年には、濾過の際に平織りの羽二重を使うことで、きれいに澄んだ白みりんの醸造に成功。やがて関東では、みりんが鰻やそばつゆに欠かせない存在となり、やがては、東名物として日本全土に広まることになる。

明治から戦前にかけては、一般家庭でもみりんが使われるようになり始めるが、 まだ贅沢品であり、高級料亭などで使われる調味料というのが一般的なイメージだったようだ。その後、本みりんの大幅減税が実現、一般家庭にも普及する。今では、ハンバーガーの定番となっている照り焼き味も、そもそもはしょうゆにみりんで甘味を加えたものがルーツだ。もちろん、海外ではみりんはなく、主に砂糖で甘味を加えている。

ちなみに、保存して置いたみりんが茶色く変色してしまった経験はないだろうか。実は、本みりんが茶色く変色するのは、含まれる糖分とアミノ酸が結びつくメイラード反応による自然現象で、品質や調理への影響はなくそのまま使える。ただし、温度が高いほど色が濃くなりやすいため、できれば適温での保管が望ましいという。

ミュージアムでは展示だけでなく、キッチンスタジオがあり、みりんの調理体験もできる。この日は、夏らしくみりんパイナップルかき氷の調理だった。パイナップルの果実と一緒にみりんを煮詰めて甘さを膨らまし、それをかき氷にかけて食べる調理だった。

キッチンスタジオには実際にみりんを煮詰めたシロップも用意されていて、舐めてみるとその甘さに驚かされた。実際には1人分で本みりん100グラムほどをパイナップルと一緒に煮詰めるのだが、それだけでとろっとした食感になり、甘さも引き立つ。ちょっとしたスイーツ感覚で食べられたことには少し驚かされた。

煮物や焼き物の照りなど、多くの料理に使われている割には、食べている間はその存在をはっきりとは意識しにくいみりん。確かにメニューに「みりん味○○」などという料理名は見たことがない。しかし、料理にまろやかな甘みを加えるだけでなく、美しい照りや艶を出し、肉や魚の臭みを消す大切な役割を担っている。食材の煮崩れを防ぎ、味を染み込みやすくする働きもある。白みりんミュージアムは、そんな「縁の下の力持ち」的存在のみりんのありがたみを知るには最適の施設だ。




