日本三大しじみをご存じだろうか。島根県宍道湖のしじみは誰もが想像できるだろう。ところが残り二つはなかなか思い浮かばないかもしれない。青森県十三湖と茨城県涸沼のしじみだ。いずれも海水が混じる汽水湖で獲れる。今回は、その中から涸沼のしじみについて、しじみラーメンを中心にしてご紹介したい。

茨城県の湖沼では、琵琶湖に次ぐ面積を誇る霞ヶ浦(西浦・北浦・常陸利根川の総称)が知られているが、涸沼は霞ヶ浦の北、茨城町、鉾田市、大洗町に囲まれた、面積は約10平方キロメートル、周囲は約24キロにも及ぶ大きな沼だ。ちなみに湖は水深が深く、底に植物が生育していないもの、一方沼は湖より浅く、底に植物が生育しているものだ。余談だが、湖沼より小さく、人工的に出来たものが池とされている。

涸沼の成り立ちは、今から約6000年前、海水面が上昇した際、入江の出口が川の土砂によってふさがれ沼となった。海水を含む汽水湖なのだが、静岡県浜名湖や十三湖とは違い、沼が触接海とつながっているわけではない。笠間を源流に涸沼を経由して那珂川河口に流れる涸沼川を、満潮時、約10キロメートルにわたって海水が逆流して涸沼まで流れ込んでいる珍しい汽水湖沼なのだ。その特殊な生態系から、2015年にラムサール条約登録湿地となっている

一般に流通している国産のしじみは、大和しじみと呼ばれる種類で、海水の影響のある河口や湖沼に生息している。涸沼は、大量の海水が流れ込む汽水湖のため、養分が豊富で大和しじみの生育に非常に適した環境といわれ、かつては涸沼のしじみは粒が大きくなることで知られていたが、ここ1年ほどは極端な不漁が続いている。

しじみは、オルニチン、タウリン、アラニンなどのアミノ酸や、ビタミンB12、鉄、亜鉛などのミネラルを豊富に含んでおり、特にオルニチンは肝機能のサポートと疲労回復、二日酔い予防に有効と言われている。さらに言えば、旨味成分のコハク酸も豊富だ。そのため、みそ汁など汁物にすると栄養を逃さず摂取できる。ちなみに生よりも、冷凍した方がうまみ成分が増す。

涸沼周辺では、みそ汁はもちろんだが、しじみのだしの味を生かしたしじみラーメンを提供する店もある。「やちべえ」は千葉から成田を経て、海沿いを水戸へと結ぶ国道51号線沿いに店を構える。車で走っていると「しじみ」の大きな看板が掲げられているので、すぐにわかるはずだ。テレビなどでもよく紹介される有名店だ。

看板メニューはもちろんしじみラーメンだ。店を訪れた際他に2組の客がいたが、ほぼ全員がしじみラーメンを食べていた。迷わずしじみラーメンを注文する。運ばれてきた丼を見てその潔さに感動した。薬味程度の野菜の他は、麺にスープ、そしてしじみだけなのだ。まさにこれぞしじみラーメンと言った装いだ。

スープは驚くほど透明だ。しじみならではの深いだしの味わいを楽しむためだろう、余計な手が入っていないのだ。塩味も薄め、少し胡椒を感じるくらいで、しじみのうまみそのものを蓄えたスープだ。ひとくちすすると思わずうなってしまう。麺も細めのくせのない麺だ。あくまで主役はしじみのうまみと言っていいだろう。

小さな貝に残ったしじみの身も残さずいただく。いい感じの具だ。よく見ると、ラーメンにはつきもののメンマすらない。それでも不満は一切ない。余計な物を入れないでくれてありがとうと言いたくなる味だ。もちろん、スープは一滴残らず飲み干してしまった。

国道51号線を南下すると、海側に大きな鹿島灘海浜公園が見えてくる。その中にある「レストラン海乃風」のメニューにもしじみラーメンがある。しかし、残念ながら券売機には「売り切れ」のランプがついていた。しかたなく、隣の売店で冷凍の「涸沼のしじみ」を購入した。

2店とも鉾田市内だが、「やちべえ」も「レストラン海乃風」も涸沼からはやや離れた南部に位置する。涸沼の水面を眺めながらしじみラーメンを味わうには、温泉宿泊施設「いこいの村涸沼」の中にある「レストラン憩い」がお薦めだ。涸沼周辺では飲食店は非常に限られており、「いこいの村涸沼」はレジャー施設も併設するため、昼時ともなると空き席待ちの行列ができる。

「レストラン憩い」のしじみラーメンは限定10食とのこと。しばらくロビーで待たされたが、何とか食べることができた。しらすご飯とのセットになっていた。登場したしじみラーメンの見た目は、ほぼ「やちべえ」と一緒。メンマがのっていたのが違いだろう。しじみのだしを生かした薄味のスープも一緒だった。

最大の差異は、バターがひとかけら添えられていたこと。しらすご飯にバターはないと思うので、しじみのだしを存分に味わった後に、味変としてスープに入れてみた。あっさりシンプルだったスープのコクが格段に深くなる。とはいえ、しじみのうまみを打ち消すようなものではない。バターを加えることによって、しじみのまた違った美味しさを味わえるようになる。これはいいアイデアだ。

青森十三湖のしじみラーメンもそうだが、涸沼のしじみラーメンもしじみが本来持つ魅力を最大限引き出す調理法になっている。その意味では、みそ汁やしじみのすまし汁との決定的な違いは見いだせないが、やはりこの深いうまみを味わうことこそがしじみの最も美味しい食べ方に違いない。ぜひとも不漁を克服して、しじみラーメンで涸沼のしじみの魅力を全国に発信してほしい。




