太平洋に面し、茨城県中央部に位置する大洗町。北海道・苫小牧港との間にフェリーが定期運行しており、首都圏と北海道を結ぶ拠点となる港町だ。観光地としても知られており、サーファーにも人気の砂浜や水族館、大洗磯前神社なども有名。さらには、あんこう料理でも知られる土地柄だ。そんな大洗のソウルフードと呼ばれているのが、たらしだ。

たらしとは、大洗ならではの粉もの料理。小麦粉を水で溶いたゆるめの生地に、キャベツや切りイカ、卵、紅ショウガ、ネギなど好みの具材を入れ、鉄板で焼き、ヘラですくって食べる。もんじゃ焼きに近いイメージだが、もんじゃほど生地がゆるくない。なので、鉄板の上で流れて広がらないため、土手を作らないで焼くところが、もんじゃ焼きとの違いと言えるだろう。いわば、お好み焼きともんじゃの中間のような料理だ。

大正時代から主に駄菓子屋で食べられるようになったという。学校帰りの子供たちを中心に、空腹を埋めるおやつとして、世代を越えて大洗町民に愛されてきたが、近年は提供店が減り、絶滅の危機に瀕していた。ところが、大洗町を舞台としたテレビアニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」の人気が高まり、作品の中でもたらしが登場したことから、多くのガルパンファンがたらしを食べに大洗を訪れるようになった。

実際に大洗の町に出て、たらしを食べてみよう。地元の商店街は、木造の店舗が軒を連ねる。商店はいくつもの通りで営業しており、かつては海水浴客で賑わったであろうことをうかがわせる。たらしの人気店「ほそのや」はそんな商店街から少し路地を入ったところにひっそりと店を構える。

鉄板を備えたテーブルが3卓。非常にこじんまりとしたお店だった。2代目のお母さんがひ孫とともに店に立つ。非常に話し好き、料理好きのお母さんで、たらし初体験の私に、たらしの歴史や調理法、食べ方などを懇切ていねいに教えてくれた。かつては、隣町の那珂湊も含めて、たらしを提供する店は多くあったが、今は数えるほどになってしまったと寂しそうだ。

「ほそのや」のたらしは750円。かつおぶし、のり、切りいか、天かす、ねぎ、えび、モヤシ、生姜、カレー、マヨネーズ、キャベツの中から5種の具を選ぶシステムだ。もちろん、追加料金1品30円を払えば、さらに具を増やすことができる。また、卵、肉、チーズ、ベビースターラーメンも1品50円で追加可能。今回は、かつおぶし、のり、天かす、ねぎ、キャベツ、卵でいただいた。

まずはお母さんから焼き方の手ほどきを受ける。カップの中のたねを、よくかき混ぜる。見ると確かにもんじゃ焼きよりは粉が多いようだ。液体というより、半液体といった感じだ。小麦粉は薄力粉を使っているという。お好み焼きのようにだしを加える場合もあるが「ほそのや」では水だけだそうだ。しかし、切りいかやえびを入れることでうまみが補われ、さらには天ぷら屋から仕入れるという天かすも、たねに味を添えてくれるという。

もんじゃ焼きとの最大の違いは、焼く際に土手を作らないことだ。たねをそのまま鉄板に「たらす」。ゆるいので広がりはするものの、もんじゃ焼きのように流れてしまうことはない。少しずつ拡げながら焼いていく。味付けはしょうゆとソースの2拓。まずはお母さんが小さく2つ、鉄板の上に「たらし」、その上からしょうゆとソースをそれぞれ注いで、味見させてくれる。その上で、好みの調味料を決定、カップのたねに注いだら、その後はセルフサービスだ。

今回はソース味を選んだ。さらにおすすめというマヨネーズも加えてもらった。鉄板の上でこてで押しつけながら焼くのは、もんじゃ焼き同様だ。水分が飛んでくると、たねが少しゆるめの粘土のようになってくる。これをこてですくって口に放り込む。ソースとマヨの絶妙の味付け、そしてだしを使っていないとは思えないほど深い味わいが伝わってくる。

しばらくすると、たねの鉄板に接していた部分がカリカリになって鉄板に張り付くようになる。これをこてで剥がして、口の中に放り込む。何とも香ばしい、いい味だ。思わずビールがほしくなった。

デザートにはくろんぼがおすすめだ。たらしのたねに黒糖と少しの白砂糖を入れたものを鉄板で薄焼きにする。そもそもは、薄いホットケーキのように食べていたそうだが、ガルパンファンの提案もあり、薄く焼き上がったくろんぼを畳み、その上にあんと生クリームをのせるようになった。あんはこしあんと粒あんから選べる。まるで高級な和菓子のような、上品な甘さが印象的だった。

もう1軒、たらしをチェックしておこう。たらしを店名に掲げた「たらし焼武田」だ。大洗町立第一中学校のすぐそばにある。こちらのたねもだしを使っておらず、切りいかが味の決め手という。デフォルトの味付けはしょうゆだった。テーブルに調味料はなく、たねに味付けされた状態で提供された。

これを鉄板の上に「たらす」。鉄板の温度は「ほそのや」よりはやや高めだ。なので、しばらく水分を飛ばしてこてでひっくり返すと、表面に香ばしい焼き色が付いてくる。ややお好み焼きに近づいてきた感じだ。確かに、この香ばしさにはソースよりしょうゆだ。あえて表面のたねを剥がすようにして、水分飛ばして味わう。そうすると、やはりカリカリが鉄板に残る。これを剥がして味わった。うーん、やはりビールがほしい。

ある意味、関西のお好み焼きに対する関東のもんじゃ焼きの大洗ローカライズ版と言えるかもしれない。ただ、月島を中心に高級化路線に走ってしまったもんじゃ焼きとは違い、昔ながらの素朴さがたらしの魅力的だ。平日は予約のみの営業、土日は来店が殺到するという「ほそのや」だが、ここで、お母さんから大洗の暮らしや歴史の話を聞きながら、たらしに舌鼓を打つのが、たらしの最も理想的な味わい方かもしれない。




