【みちのくひとり食べ】④想定外の菊人形

投稿日:2025年12月13日 投稿日: (更新日:

秋の一日(いちじつ)、ふと思い立って安達太良山を目指すことにした。拙宅から車で4、50分も走れば着くはずだ。ついこの間まで猛暑日のニュースが列島のあちこちから届いていたのに、このところ秋の色がにわかに深まってきた。そして今日は朝から陽が差している。そろそろ紅葉が見ごろになっているだろう。

ロープウエーに乗れば標高1350メートルの高みから阿武隈山系、吾妻小富士、遠く蔵王山系まで見渡せるという。

郡山から国道4号を北上して二本松市方面に向かう。本宮市を過ぎて大玉村に入ったところで安達太良山を見上げると、山体の上半分が雲に隠れている。これでは紅葉狩りも眺望も望めないかもしれない。途中のコンビニに寄って様子を見ることにした。コーヒーなどを飲みながら山を眺めていたのだが、雲が動く気配はない。

そのときふと思い出した。東日本大震災から1年後の2012年3月、水戸から青森県八戸市まで被災地を巡った折、二本松市を通った。桜の名所として知られる霞ガ城(二本松城)公園には戊辰戦争に従軍した二本松藩の少年隊の群像があった。「そうだ、あのお城に行こう」。

着いてみると城の石垣周辺が賑やかだ。駐車場には警備員まで立っている。知らなかったが、ちょうど菊人形展の最中だった。石造りの階段を昇ったら、目の前が会場になっていて、券売機で900円の入場券を買った。

もらったパンフレットには「第69回」とあるので始まったのは1956(昭和31)年ということになる。今回のテーマは「華やぐ江戸文化~蔦屋重三郎の生きた世~」だそうだ。NHKの大河ドラマの、いわば本歌取(もとうたとり)だ。そんなことを考えながら会場を見て回るうちにお昼の時間になった。

駐車場の先に道路を挟んで重厚な建物が見える。「あいおい」という店だった。あちこち回って店を物色するのも面倒だったので、ふらりと入った。テーブル席はなく、すべて堀こたつ式の和風の設え。

980円の週替わり膳から2450円の松花堂までメニューは豊富。その中から1250円の天丼ランチを注文する。さくさくと揚がった天ぷらがのった丼にくるみ豆腐、茶碗蒸し、香の物、そしてしじみ汁という陣容だ。どれを食べても美味い。一切の手抜きがなく、料理人の腕と矜持が忍ばれる。後でわかったことだが、ここは二本松を代表する名店なのだそうだ。

目当ての安達太良山は次回を期すとして、地方都市には周辺でしか知られていないいい店があるというのは本当だ。昼食は大当たり。コスパ最高だった。

前回の話の続きを少し。郡山には池を囲む公園がいくつもある。明治の初めに安積疎水の開削によって猪苗代湖の水が引かれるまで、灌漑用のため池に頼っていた。疎水の完成でため池の役割は終わり、ある池は公園に姿を変え、ある池は鯉の養殖場になった。その結果、郡山市は市町村別の鯉の生産量が全国1位に。いまは「鯉を食べようと」呼びかける「鯉に恋する郡山プロジェクト」が大々的に繰り広げられている。

野瀬泰申(のせやすのぶ)/ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会(愛Bリーグ)会長

1951年福岡県生まれ。食文化研究家。東京都立大卒後、日本経済新聞入社。東京・大阪社会部、大阪文化部長、特別編集委員・特任編集委員を歴任。大阪勤務時代に「ウスターソースで天ぷらを食べる」人々を見て「食の方言」に気づき、取材を続けている。2008年までは日本レコード大賞の審査委員・副審査委員長も務めた。「ご当地グルメでまちおこしの祭典!B-1グランプリ」主催団体「ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会の設立に関与。2018年より現職。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。


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