埼玉県には「るーぱん」や「ぎょうざの満州」など、地元密着型の外食チェーンが多いが、その中でも特に埼玉県民からの愛され度が高いのは、間違いなく「山田うどん」だろう。看板にうどんを掲げるが、うどんだけでなく幅広いメニューを揃え、多くの埼玉県民の空腹を手頃な価格で満たす食堂として、広く愛されている。

創業の地は所沢で、現在も本社は所沢に構える。武蔵野うどんの項で紹介したが、埼玉県は東のうどん県として知られ、とにかくうどんをよく食べる。荒川以東の米の裏作としての麦食と県南西部の蔵野台地の火山灰地で水田が作れなかったが故の麦食とが合わさり、広大な麦食地帯を形成する。所沢は武蔵野台地、火山灰地の麦食の中心地で、「山田うどん」は、1935(昭和10)年にうどん専門店として創業する。

53(昭和28)年に製麺所を、59(昭和34)年には製粉工場を建設。66(昭和41)年には、販路拡大のために現在の「山田うどん」の原形となる、ドライブイン型うどん店を開店する。その後、ロードサイドを中心に順調に店舗網を拡大していくが、80年代に入ると大手ファミリーレストランチェーンの台頭から苦境に立たされる。

そこで、店舗網を縮小する一方で、入間市に建設した工場をセントラルキッチンに据え、うどん中心のメニュー構成からそば、ラーメン、丼もの、定食まで幅広いメニューを取り扱うよう転換する。さらに、ファミリーレストランのターゲット層と差別化するため、ブルーカラー層が好む「がっつり系」のメニューへのシフトも進める。加えて、メニューが増えたことによる品質のばらつきを押さえるため、それまでのフランチャイズでの多店舗展開を直営店中心に転換する。

こうして「うどん」を看板に掲げながらも、定食やどんぶりものが看板メニューと呼ばれる、現在の「山田うどん」のスタイルが確立した。また、直営店化で、埼玉県下中心の出店が進み、チェーン151店(2026年3月末現在)中、約半数が埼玉県内に立地、埼玉県民のソウルフードと呼ばれるようになった。さらに18年には、屋号を「ファミリ-食堂山田うどん食堂」に改め、店舗デザインをリニューアル。ブルーカラー層だけでなく、ファミリー層にもターゲットを拡げる戦略も取り入れた。

では実際に「山田うどん」を訪れて、埼玉県民のソウルフードを味わってみることにしよう。訪れたのは、所沢の本社ビル1階にある本店。かつては工場も併設していただけあって、思いのほか大きなビルだ。店舗の右には「山田食品産業株式会社」の看板が掲げられ、本社事務所を併設する。

まずいただいたのは「山田うどん食堂」の看板メニューであるパンチだ。埼玉県民なら、「山田うどん」といえばまずパンチを思い浮かべるだろう。パンチとはもつの煮込みのことで、年間248万食も売り上げる人気メニューだ。もつの煮込みは群馬県が有名だが、群馬同様、パンチも牛ではなく豚もつを、こんにゃく、メンマとともに味噌で煮込んだものだ。もつ煮にメンマは珍しいが、よく味を吸い込んで、食感もよく、メンマの存在こそが「山田うどん」のパンチの証と言っても過言ではないだろう。

もつ煮込みというと一般的には酒のつまみのイメージが強いが「もつ煮込み地帯」である埼玉県高崎線沿線から群馬県にかけては、むしろご飯のおかずとして愛されている観がある。ほぼ全員がクルマで訪店する渋川の「永井食堂」も定食で食べるし、立ち食いそば店「ゆで太郎」に併設する「もつ次郎」も定食スタイルだ。「山田うどん」でも、定食が基本だ。

「山田うどん食堂」では、パンチ定食、あるいは麺料理に添えるミニパンチ丼としての提供がメインだ。ロードサイド店が多いためクルマでの来店が前提になってしまうことと、主たるターゲット層であるブルーカラー層がトラックやバンなどで来店することも背景にあると思われる。

パンチには辛いバージョンもある。赤パンチだ。麻辣醤に数種類の唐辛子、ニンニク、生姜を加え、通常のパンチに比べパンチ力抜群の味わいに仕上げている。ちなみに、パンチ、赤パンチ、それぞれ定食が用意されているが、加えて、両方のパンチが食べ比べできるパンチ食べくらべ定食も用意されている。ちなみに、パンチ・赤パンチはテイクアウト用のパックも用意されているので、持ち帰って家で一杯やることも可能だ。

そして、パンチと並ぶ「山田うどん食堂」の看板メニューがかき揚げ丼だ。讃岐うどんの店はもちろん、うどんそば店で天ぷらはトッピングとして必須で、「山田うどん」のメニューにもかき揚げをのせた天ぷらうどん・そばが存在する。かき揚げ丼は、そのタマネギやイカ、干しエビの入ったかき揚げを、特製丼つゆで煮込んでから、卵でとじたユニークなどんぶりだ。

天ぷらうどんならつゆに浸して食べるし、天丼なら甘めの丼つゆにくぐらせてからご飯にのせるのが王道だ。しかし、つゆにくぐらせてから卵でとじるのは「山田うどん」ならではのスタイル。手ごろな食材を使った安価なかき揚げを使っているが、天とじ丼の感覚で、通常の天丼にはないリッチな味わいが楽しめる。

ご飯物が続いたが、店名として看板に掲げるだけに、うどんは欠かせないだろう。「山田うどん」では、たぬきうどんは、定食などご飯物とセットで食べることが多い。特に月曜日から金曜日まで日替わりのどんぶりとセットで食べる日替わりセットが人気だ。しかも添えられるうどんは、ハーズサイズではなくフルサイズ。フルサイズの丼とフルサイズのうどんの満腹セットだ。

たぬきうどんの代わりにラーメンも選べる。昔ながらの優しいしょうゆ味のラーメンとざるラーメンのどちらかを選べる。東北地方ではよく見かけるが、関東でざるラーメンはなかなかお目にかかれない。ヘビーなどんぶり飯と一緒に食べるなら、するする入るざるラーメンがいいかもしれない。

前回紹介した同じ埼玉県のローカルチェーン「ぎょうざの満州」が万人向けに奇をてらわずオーソドックスに徹していたのとは対照的に、「山田うどん」ではパンチやかき揚げ丼など「山田うどん」ならではの個性的なメニューが並ぶ。わざわざ県境を越えて埼玉県にまで足を運んでまで食べたくなる…。そんなところが、埼玉県民のソウルフードたる所以かもしれない。




