ルーツは観光みやげ 茨城の納豆 (トップ写真) 茨城を代表する味は何か、と問われたら、ほぼ全員が納豆と答えるに違いない。しかし、歴史やデータをひもとくと、茨城に勝る「なっとう県」が多々あることが分かる。例えば消費量では、福島市が水戸市をしのぎ「日本一納豆を食べるまち」だ。歴史をひもといても、納豆が誕生したのは秋田、あるいは京都の説が有力だ。 (写真:昔ながらの藁納豆) 平安時代、後三年の役の際に、馬の餌だった煮豆に、馬を休ませる稲わらの納豆菌が付着して発酵したというエピソードが有名だが、そもそも稲わらも大豆も古くからあるもの。縄文時代の終わり頃にはすでに納豆のようなものが食べられていたとも言われている。 (写真:納豆なめ茸、そばやご飯と合わせると美味しい) 茨城が「なっとう県」になった歴史は、実はさほど古くはない。古くから納豆を生産していた茨城だが、その生産量が拡大したのは、常磐線が開通し、大消費地・東京と生産地・茨城が高速交通で結ばれて以降のことだ。そう、茨城を「なっとう県」たらしめているのは、その生産量の多さだ。 (写真:黒豆や青豆など豆の種類によって納豆も変わってくる) 実は納豆、「おかめ納豆」で知られる茨城県のタカノフーズと「金のつぶ」で知られる愛知県のミツカンが、全国の生産量の約7割を占めている。各地にローカルメーカーが点在するため、納豆売り場には多種多様な製品が並ぶが、実は全国単位で見ると、2大メーカーの存在感が圧倒的に大きい。しかも、トップのタカノフーズの市場シェアは、ミツカンの倍近い。そう、タカノフーズを擁する茨城は、生産量の面で、他県を圧倒する。 (写真:タカノフーズ水戸第三工場) そんなタカノフーズの基幹工場である、笠間市にある水戸第三工場では、2025年、工場見学併設型ミュージアム「なっとく!ファクトリー」をオープンした。納豆の素朴な疑問を、おかめ納豆のパッケージに登場するキャラクター「おかめちゃん」とともに映像や展示で学ぶ施設だ。 (写真:タカノフーズのなっとく!ファクトリー) 納豆菌によって煮豆が発酵し、納豆になるのはご存じの通りだが、現在はプラスティック容器での販売が主流だ。各メーカーとも藁で包んだ納豆も製造するが、衛生面もあるのだろう、たいがい薄い透明なシートで包んだ上で藁に詰められている。発酵を終えた納豆を小分けにパッケージングして出荷しているものとばかり思っていた。 (写真:納豆の糸は旨味成分そのもの) しかし工場を見学してみると、煮豆をプラスティック容器に充填する一連の流れの中で、納豆菌を噴射、そのまま封をしてパッケージングしているのだ。つまり容器詰めが終わった段階では、中身はまだ納豆として完成していないのだ。その後、パッケージごと室(むろ)で発酵、店頭を経て、家庭に届けられる。 (写真:舟納豆の納豆ミュージアム) 県北・常陸大宮市のローカルメーカー・舟納豆でも工場見学ができる。タカノフーズ水戸第三工場は最新鋭工場なので、原料の加工からパッケージ化まで、納豆そのものの重さを生かして縦方向に落ちるような形で製造するため、見学ルートから見ることができるのは1階の出荷施設のみだ。しかし、舟納豆の納豆ミュージアムでは、横方向へ流れるラインになっているので、その仕組みが理解しやすい。 (写真:細かく刻んだ切り干し大根が入ったそぼろ納豆は水戸のソウルフード) よく見ると、煮豆が充填されてずらりと並ぶ容器の上から納豆菌を噴射している。かつて納豆は、煮豆を藁から出して初めて納豆になった。藁は包装材であると同時に、極めて重要な製造工程の一部でもあった。藁はプラスティック容器に代わったが、その製造工程は、最新鋭工場でもいにしえの製法、そのままだった。 (写真:大粒の副将軍) タカノフーズ水戸第三工場にはもちろん直売所もある。店頭では見かけないような製品もあるので、ぜひ買って帰りたい。副将軍納豆は、高級ブランドだ。国産大豆ならではの豆の風味と、大粒ならではの豆の存在感が楽しめる。附属のたれにもこだわる。カツオと昆布の合わせだしにしょうゆを効かせたオーソドックスな味わいと海苔の香りが魅力的だ。 (写真:館内の販売コーナーには多種多様な製品が並ぶ) 福岡の「やまや」の明太子の漬けだれをベースに、焼き明太子が入った明太子納豆は、ただでさえご飯との相性のいい納豆を、ぴりっと辛めに仕上げてさらにご飯が進む味に仕上げている。納豆特有のにおいを弱めたふんわりやわらか納豆やフレーバーを効かせたやみつき薬味山わさび納豆、しそ海苔納豆など、最大手だけに実にバリエーション豊かだ。 (写真:舟納豆の納豆ミュージアム) 納豆ミュージアムを併設する舟納豆は、県内では高級納豆メーカーとして知られる。舟の形をしたパッケージがその名の由来。県外の食品スーパーなどではさすがに見かけないが、単価1000円を超える製品もあるなど、味と品質に徹底してこだわった納豆が味わえる。 (写真:左が紅わっぱ、右が青仁一粒) 高級納豆を代表するのが「わっぱ」シリーズ。紙製の舟ではなく、わっぱに納められている。青仁一粒は、宮城県産の青大豆を使った大粒の納豆だ。ご飯にかけて食べるというよりは、酒のつまみ、お茶請けを想定している。なので、かき混ぜるのではなく、添付のたれを好みでかけて一粒ずつ食べるのがお薦めという。紅わっぱは、山形県川西町産、ポリフェノールの含有量の多さで知られる紅大豆を100%使った大粒タイプの納豆だ。 (写真:ワインdeナットーネ 左がトリュフ塩、右がチーズ) ユニークなのは、ワインdeナットーネ。青仁一粒同様、酒のつまみとして食べる納豆だ。商品名の通りワインなどの洋酒と共に食べるのを想定している。たれというかソースと言えばいいのだろうか、味の違いでトリュフ塩とチーズがある。 (写真:笹沼五郎商店の本社直売所、手前には清左衛門を顕彰する石碑も) 水戸には創業1889(明治22)年、100年を超える歴史を誇る老舗「水戸元祖天狗納豆」のブランドで知られる笹沼五郎商店もある。初代笹沼清左衛門は、水戸納豆の父とも呼べる存在だ。1884(明治17)年に納豆の商品化を思い立ち、納豆の本場・東北で製造技術を学び、独自の製法で納豆を商品化する。1889(明治22)年に現在の常磐線が水戸に到達すると、観光客に目を引く天狗の商標で売り出し、人気商品に仕立て上げた。 (写真:大袋の納豆がずらり並ぶ常磐自動車道のサービスエリア) 茨城県内にある常磐自動車道のサービスエリアに行くと、他のどんな土産物よりも大きなスペースを割いて納豆を茨城土産にアピールする。毎朝必ず食べる人も居るほど納豆は「日常の食」だが、そもそものルーツは観光みやげ。工場見学も含め、納豆を旅の主目的にするのもいいかもしれない。