とんこつと魚介、辛味が創り出す個性 赤湯のからみそラーメン (トップ写真) 「ラーメン県」山形県は、市町村別ラーメン消費量日本一を誇る山形市のみならず県内各地に人気のご当地ラーメンが存在する。村山地方なら山形市の冷やしラーメンや河北町の鳥中華、最上地方なら新庄市のとりもつラーメン、庄内地方なら酒田のワンタンめん、置賜地方なら米沢ラーメンといったところだ。そして置賜地方にはもう一つ高い人気を誇るラーメンがある。南陽市赤湯のからみそラーメンだ。 (写真:南陽市の味、からみそラーメン) しょうゆで味付けされたスープのラーメンが一般的山形県だが、赤湯は味噌ラーメンにさらにからみそがトッピングされていることが特徴だ。そのルーツは、1958(昭和33)年に創業した「龍上海」にある。ルーツというか、ほぼ「龍上海」の名物ラーメンと言って良い。とはいえ、南陽市役所が2017年5月に刊行した市内のラーメン店を紹介する地図状の冊子「なんようしのラーメン」によれば、「龍上海」以外でも複数店でからみそラーメンを提供していることが分かる。 (写真:「龍上海本店」) まずは元祖店の「龍上海本店」を訪れた。人気店と聞いていたので、午前11時30分の開店前、午前10時45分ごろに訪店したが、すでに店舗前の駐車スペースは満杯、店の前には長蛇の行列ができていた。ちなみに、同店は入れ替え制になっており、45分前の到着で、すでに1回目の入店には間に合わなかった。 (写真:からみそラーメン(左)としょうゆの赤湯ラーメン) 「龍上海」のホームページによれば、からみそラーメンを編み出したのは、2代目店主の佐藤春美さん。春美さんが11歳の時に先代の父・一美さんが「龍上海」を開いたものの、「食べたかったら自分で作れ」と家族のためにはラーメンを作ってはくれなかったという。一方で、からみそラーメン以前の「龍上海」は繁盛店とは言えず、毎日のようにスープが売り残っていた。そこで春美さんが、残ったスープに自分で味噌を入れて食べてみたのが始まりだという。 (写真:からみそは好みでスープに溶かして) 1960(昭和35)年に父・一美さんが春美さんの作った味噌ラーメンの商品化を決意する。札幌味噌ラーメンの元祖店「味の三平」で味噌ラーメンの提供が始まったのが1954(昭和29)年、それが全国的に知られるようになるまで約10年かかっているので、その意味では、札幌とは違ったルーツを持つ、歴史ある味噌ラーメンと言える。 (写真:にんにくや唐辛子、みそなどをブレンドしたからみそ) しかし、だしに味噌を加えただけのラーメンでは、思うような美味しさが表現できなかったようだ。様々な試行錯誤を重ねた末、にんにくや唐辛子、みそ、砂糖など多くの食材をブレンドして完成したからみそをトッピングすることで「みそ中華」(発売当初のからみそラーメンのメニュー名)が誕生した。 (写真:「龍上海本店」のからみそラーメン) 注文したのは、もちろんからみそラーメンだ。キッチンでは2巡目、30席分ほどの注文をいっぺんに調理しているようだ。最初のうちに調理したものは冷めてしまうのではないかと心配したが、配膳されたからみそラーメンはスープも熱々のままで、麺が伸びているということもなかった。丼の中央に鎮座したからみそが、ビジュアル的にいいアクセントになっている。 (写真:白濁スープの上に脂が) スープはとんこつらしい白濁が見て取れるが、その上にうっすら透明な部分がある。ラード、脂だ。実際口をつけてみると、まずは脂の風味がわっと広がる。そのベースになっているのがとんこつだ。しかし、味付けに味噌を使っている点が、九州の塩とんこつや東日本のしょうゆ豚骨とは明確に違う味を醸し出す。 (写真:太めの自家製麺にからみそが絡む) そして煮干しだろう、うっすらと魚介の風味もある。さらに、トッピングとして青のりもまぶされており、とんこつの濃厚さと和風の磯の香りが微妙に折り重なっているのだ。白濁、清湯含め各地のとんこつスープを色々食べてきたが、他の地域にはない味わいだ。そして、そこにからみそを溶いていく。どれだけ溶くかは好み次第だ。しっかりとした辛味なので、辛いのが弱い人はあまり溶かしすぎない方がいいだろう。太めの自家製麺との相性もいい。 (写真:さらに脂が効いた赤湯ラーメン) 開業当初はしょうゆラーメンだったということなので、比較のため、しょうゆ味の赤湯ラーメンも注文してみた。麺は同じ物と感じた。スープもだしは一緒なのだろうが、からみそに比べてさらに脂のパンチが増していた。上澄みのひとくち目のスープは、ラードがガツンとくる味だった。 (写真:「ラーメン餃子囲ろ川」の辛味噌ラーメン) 念のためもう1軒、国道13号線沿いにある「ラーメン餃子囲ろ川」も訪ねてみた。こちらも人気店で、リモコンを渡され、駐車場で40分ほど待たされた後にリモコンがブルブルと振動し始めた。注文したのは、もちろん辛味噌ラーメン。まずはテーブルに用意された、無料の麻婆春雨、たくあんなどをつまみながらラーメンの到着を待つ。 (写真:胡麻と青のりがたっぷりの「囲ろ川」のスープ) スープは、「龍上海本店」と比べると脂控えめだった。ただ、胡麻と青のりがたっぷりとトッピングされており、油控えめを胡麻がうまく補っている感じがした。脂多めが苦手の人なら「ラーメン餃子囲ろ川」の方がおすすめかも。麺も太めの自家製麺で、スープとの相性もやはり良かった。 (写真:「龍上海横浜店」のからみそラーメン) ちなみに現在「新横浜ラーメン博物館」にも「龍上海」が出店中だ。入れ替え制の店舗運営も含めて、味の再現性も非常に高いと感じた。脂の多さととんこつと魚介のえもいえぬマリアージュは、新横浜でもじゅうぶん体験できる。 (写真:行列が絶えない「龍上海横浜店」) 「龍上海」は、本店、夜だけ営業する南陽市内の栄町店の他にも、置賜地方の中心都市である米沢市や、村山地方の県庁所在地・山形市、空港の他新幹線も止まる東根市にも支店がある。地元に限らず広く愛されているのだろう。確かに、とんこつと魚介のマリアージュ、さらにはからみそは、なかなか個性的だ。近くに行く機会があったら、ぜひ食べてみることをおすすめする。