秋の味求めて、行列 亘理のはらこめし (トップ写真) サケは川で生まれる魚だが、成長と共に、栄養豊富な餌を求めて海に出て、体を大きく成長させる。そして、産卵期になると自分が生まれた川に戻ってきて産卵をする。宮城県は北上川や阿武隈川など多くの川に恵まれ、毎年秋になると産卵のため、多くのサケが遡上してくる。県の白サケ類の漁獲量は全国トップクラスで、その背景には、100年以上も前から人工ふ化放流事業を行うなど、サケを守り育ててきた歴史がある。そんな「サケどころ」宮城の郷土食が、サケの切り身といくらを使った炊き込みごめし、はらこめしだ。 (写真:サケが遡上する阿武隈川) 「はらこ」とは地元でいくらを指す言葉で、サケの腹にいる子=腹子からそう呼ばれるようになった。かつて、伊達政宗公が、現在の亘理町荒浜の運河工事を視察した際に、領民からはらこめしが献上され、食したとの記録も残っている。伊達政宗の時代以前から、地元民は阿武隈川を遡上してくるサケを地引網で獲っており、はらこめしは地元の「漁師めし」として愛され続けてきた。 (写真:できたてのはらこめし弁当) 当初は釣れたサケをはらこと共にご飯に炊き込んでいたようだが、現在では、サケを煮て、その煮汁を使ってご飯を炊き、煮汁にさっとくぐらせたはらこを合わせて盛り付けるのが一般的だ。通常、産卵を迎えたサケは、卵に栄養を注ぎ、身が弱ってしまうため、現在では、別途脂ののったサケの切り身を使って調理することも多い。各家庭によって味付けが異なり、それぞれの味を食べ比べるのも、本場ならではの楽しみだ。 (写真:まちのあちこちに「はらこめし」の幟が踊る) 実際に亘理で、旬のはらこめしを食べてみよう。9月に入ると亘理町内のあちこちで「はらこめし」の幟が立ち始めるが、やはり提供店が多いのは、海・漁港に近い荒浜地区だ。特に人気が高いのは、元々漁師だった親方が、魚介類の宝庫である荒浜地区の旬の食材と、漁師料理の伝統を受け継ぐべく鮨屋として開業した「旬魚・鮨の店あら浜」だ。 (写真:「旬魚・鮨の店あら浜」) 念のため、開店の30分前をメドに店に向かったが、目に飛び込んできた風景にまずは驚かされた。海に近い、広大な駐車場を持つ店なのだが、その駐車場が埋まり掛かっているのだ。急いで車を停め、店頭へ急ぐと、そこには整理券発行機が。すでに、32組もの客が駐車場のクルマの中で待っていた。 (写真:行列の「和風レストラン田園」) 整理券を確保したら、もう1軒の候補店に急ぐ、亘理町の中心街を抜けて、国道6号線亘理バイパス沿いにある「和風レストラン田園」に着くと、やはり広大な駐車場がほぼ満車状態だった。こちらは店頭の用紙に名前を書いていく方式。順番は34番目だった。やはり、はらこめしのシーズン、亘理の人気店は、大行列なのだ。 (写真:「あら浜」のはらこめし サケのあら汁がつく) まず呼び出されたのは「あら浜」のほう。車を飛ばして再び海辺へと戻る。海の近くまで田園が広がる亘理は、東日本大震災の際、店のはるか内陸を走る常磐自動車道まで津波に見舞われており、同店も津波によって全壊した。なので、現在の店舗は比較的新しく、広々している。 (写真:いくらの美味しさが際立つ) さっそくはらこめしを食べてみよう。「あら浜」のはらこめしは、9月初旬から12月初旬までの提供。宮城県産の秋サケを使う。特にいくらの美味しさが光る。薄皮を剥ぐ、緻密な作業から始まるていねいな手仕事による下処理は、いくらの美味しさを際立たせる。 (写真:ご飯がいくらとサケを調和させる) そして、ともすると主役の座を奪い合ういくらとサケの切り身が、炊き込みご飯と一緒に盛ることで見事に融合しているのだ。イクラだけなら、サケだけなら、白ご飯や酢飯でも良さそうにも思うが、味付きご飯を一緒に食べるからこそ、いくらとサケが調和するように感じた。 (写真:「田園」のはらこめし) 「あら浜」で食べ終えたらすぐに「和風レストラン田園」に戻る。幸いなことに、1時間ほどの間にちょうど順番が回ってきていた。早速はらこめしを注文する。こちらはビジュアルがとても美しい。サケの切り身の間を埋めるようにいくらが敷き詰められている。下の炊き込みご飯が見えないほどだ。 (写真:「田園」はサケの美味しさが際立つ) そして「和風レストラン田園」はサケの美味しさが光る。ふっくらふわふわの仕上がりだ。少し色が薄めのご飯と相まって、ふんわりと優しい食感だ。正直なところ、人気2店はそれぞれの良さがあり、甲乙つけがたいところだ。「和風レストラン田園」は、まちなか、国道沿いという点が優位点かもしれない。 (写真:安達魚店」) 持ち帰りのはらこめし弁当も食べてみよう。常磐自動車道のガード脇にある「安達魚店」は店頭にはらこめしの弁当が山積みになっており、車で乗り付けた多くの客が、それを買って持ち帰った。価格帯は、「あら浜」や「和風レストラン田園」とは大きくは変わらなかった。 (写真:「フラミンゴ」のはらこめし弁当Mサイズ) 一方で「あら浜」より先、さらに海に向かった荒浜漁港には「フラミンゴ」「鳥の海ふれあい市場」が軒を連ねており、どちらでもはらこめし弁当を販売していた。人気2店の半額以下、1000円の「フラミンゴ」のはらこめし弁当Mサイズを購入した。持ち帰って食べてみたが、イクラの量こそ限られていたが、その価格設定を感じさせない美味しさだった。そもそもが「漁師めし」。手軽な価格でも美味しく食べられるのが、魅力でもあるのだろう。 (写真:各店ハーフ(右)やミニを用意するので食べ歩きにも最適) 漁港の2店もけっこうな混雑ぶりだった。「和風レストラン田園」での食事の後、再び「海産弁当フラミンゴ」を訪ねたところ、人気のとろはらこめしはすでに完売していた。はらこめしシーズンの亘理は、どこもこんな感じなのだろう。訪れる際は、心して向かってほしい。