秋の休日、いも掘りとやきいもで 行方のさつまいも (トップ写真) あれほど猛暑が続いた夏が終わり、涼しさとともに日本列島に秋がやってきた。秋の味覚の代表格と言えるのが、さつまいもだ。「さつまのいも」というように、県別生産量が最も多いのは鹿児島県だが、ご存じの通り、鹿児島のさつまいもは主に焼酎用だ。食用のサツマイモは、実は茨城県が最も生産量が多い。鹿行(ろっこう)と呼ばれている、県南部の太平洋と霞ヶ浦に囲まれた地域から千葉県にかけてが主産地だ。 (写真:熱々ほくほく、焼きたてのやきいも) 特にサツマイモの生産が盛んなのは、県南東部に位置する行方市だ。霞ヶ浦と北浦という2つの湖に挟まれた行方台地は、赤土のなだらかな傾斜を持った畑で、水はけが良く、さつまいもの栽培に適している。市町村別では、生産量・品質ともに全国トップクラスを誇る。 (写真:「なめがたファーマーズヴィレッジ」) そんなさつまいものまち・行方には、さつまいもに特化したテーマパークがある。なめがたファーマーズヴィレッジだ。2013年に廃校になった小学校跡を体験型農業テーマパークとして復活させた。行方市に、地元農協のJAなめがたしおさい、そして大阪に本社を持つさつまいも菓子のメーカーである白ハト食品工業が手を組み、さつまいもの魅力を多くの人に向けて発信している。 (写真:つるは乾燥させていもがらに) 実はさつまいもが最も美味しくなるのは冬だ。秋の訪れとともに収穫が始まるのだが、掘りたてのさつまいもは実はそれほど甘くはないのだ。厳重な温度管理の下で寝かせることで、さつまいものデンプンが糖に変わる、つまり糖化することで、さつまいもは甘くなるのだ。 (写真:キュアリング定温・定湿貯蔵庫) 収穫したさつまいもは、まず温度32度、湿度90%以上の部屋で数日間寝かせるキュアリング処理を施し、病気がいもの中に入らないようにする。キュアリング後は、温度13〜15度程度、湿度90%以上を保ち、寝かせる。この寝かせる期間は品種によって違い、紅こがねなら4カ月程度、べにまさりは1カ月ほどで出荷が可能、紅優甘(べにゆうか)なら収穫直後でも美味しく食べられる。なめがたファーマーズヴィレッジでは、ミュージアム内で貯蔵庫も見学できるが、すぐ近くには、2005年にJAなめがたしおさいが建設したキュアリング定温・定湿貯蔵庫も立地している。 (写真:「いもっこ源次郎」のさつまいもチップス) JAなめがたしおさいでは、行方かんしょなど通年で生産できる品種も生産しており、1年を通じてさつまいもを出荷している。しかし、人気の高い紅こがね、紅まさり、紅優甘、ベニアズマ、べにはるか、シルクスイートなどの品種は、いずれも9月から収穫が始まり、糖化を経て、10月以降に出荷が多くなる。 (写真:工場見学も) というわけで、秋の鹿行は「芋掘り」が観光の目玉になる。なめがたファーマーズヴィレッジでも芋掘り体験ができる。もちろん地元農家の畑でも芋掘りは行われているが、なめがたファーマーズヴィレッジならさつまいも加工品の工場も併設しているので、収穫から加工、さらには施設内のレストランで実食まで、一貫して体験できるのが魅力だ。 (写真:掘るのは芋の周囲のみ) まずは収穫体験から。植え付けから約100〜150日後が目安で、葉が黄色く枯れ始めていたら収穫のサインだ。掘り出しの際には、芋を傷つけないよう、十分な注意が必要。土が湿っていると傷がつきやすいので、雨の日や雨の後を避け、土が乾いているときに収穫するのが望ましい。 (写真:周囲の土を取り除きながら掘り出す) 掘り出しは手で掘るのが基本。まず株元から10センチ程度のところでつるを刈り取り、地上部の葉や茎を取る。つるが伸びる方向の反対側からスコップを入れ、掘るのは芋の周囲のみ。ちなみにつるは乾燥させていもがらとして食べられる。ある程度、土が取り除けて土が柔らかくなってきたら、軍手をつけて手で掘り進める。急いで引き抜こうとすると芋が途中で折れてしまうので、さつまいもの周りの土を取り除いて芋が見えてきたら、周囲の土を取り除きながら掘り出すといいだろう。 (写真:見学後はやきいもと大学いもを試食) 収穫体験の後は、やきいもファクトリーミュージアムの見学だ。廃校になった校舎がそのままミュージアムになっている。まずは400年前に遡る日本のさつまいもの歴史が紹介されている。さつまいもの栄養価の高さや、普及に尽くした歴史的人物の紹介、なぜさつまいもを食べるとおならが出るのかなど、様々な知識を展示で紹介する。 (写真:「SAKURA CAFE」のおいもソフトクリーム) 校舎の隣は工場だ。大学芋ややきいもの製造ラインを間近に見学できる。やきいもをベルトコンベアで動かしながら焼く機械は長さ19メートルもある。また、製品を保存するマイナス30度の冷凍庫も体感できる。そして順路の最後は試食だ。できたてのやきいもと大学芋が味わえる。さらに売店では、大学芋の詰め放題もあるので、帰りに買って帰ろう。レストランでさつまいも料理に、カフェでさつまいものソフトクリームに舌鼓を打つのもいいだろう。 (写真:「いもっこ源次郎」) 行方のさつまいもの魅力に触れるなら、なめがたファーマーズビレッジだけでなく、ぜひ「農産物直売所やさいの声」と隣接する「いもっこ源次郎」にも立ち寄ってほしい。「農産物直売所やさいの声」では、地元産のさつまいもが小袋入りから段ボール箱入りまで、ほしい量で買うことができる。 (写真:「農産物直売所やさいの声」のさつまいも・サバ缶キャッチャー) 興味深いのは、「農産物直売所やさいの声」がさつまいもだけでなく「サバ缶専門店」を謳っていること。店主の原田さんがこだわって収集したという160種類以上の全国各地のサバ缶がずらり並ぶ。さらに店頭にはUFOキャッチャーならぬさつまいも・サバ缶キャッチャーというクレーンゲームもある。ぜひ一度挑戦してみてほしい。 (写真:家庭でも石焼きいも) 買って帰ったさつまいもは、様々に食べることができるが、やはりおすすめはやきいもだ。やきいもの最も美味しい焼き方は、石焼きいもだ。実は家庭でも石焼きいもは調理可能だ。使い古しの鍋ややかんにホームセンターなどで売っている玉砂利を底が見えないくらいに敷き加熱。石が十分熱くなったら中火にしてさつまいもを石の上に置き、60〜90分じっくり焼けばできあがりだ。遠赤外線効果で熱々ほくほくになる。 (写真:「いもっこ源次郎」のさつまいもモンブラン) 「いもっこ源次郎」は、今年4月にオープンしたばかりのさつまいもスイーツの専門店だ。さつまいもモンブランや、油で揚げたさつまいもチップスなど、様々なオリジナルのさつまいもスイーツを楽しむことができる。茨城というと干し芋が有名だが、せっかくの収穫期。この季節は、ほしいもではなく、生のさつまいもを使った料理、スイーツをぜひ楽しんでみてほしい。