にんにくガツン 上田の美味(うま)だれやきとり (トップ写真) 上田市は長野県東部にあり、東信地方および上田地域の中心都市で、長野県内では長野市、松本市に次ぐ3番目の規模を誇り、駅前には、夜の歓楽街が広がる。中でも人気はやきとりで、しかも、その多くが、他のまちにはない一風変わったやきとりの食べ方をするのだ。焼き上がったやきとりに、後からたれをかけて食べるのだ。 (写真:すりおろしにんにくがたっぷり) しかもこのたれが、一般の漬け焼きにするやきとりのたれとは大きく違い、甘みは少なく、粘度は低くさらっとしている。さらにはすりおろしたニンニクがたっぷり入っているのだ。「にんにく風味のしょうゆだれ」などと生やさしい味ではない、まさに「にんにくがたっぷり入ったしょうゆ」と表現できる刺激的な味だ。これを塩焼きしたやきとりにたっぷりと掛けて食べる。 (写真:初代「鳥正」の味を引き継ぐ「つづらや」の美味(おい)だれ) このたれが誕生したのが、昭和の高度経済成長期。まちの発展と共に、上田にはやきとり屋が増えていく。その中で「鳥正」の初代店主である宮下正三氏が、やきとりににんにくしょうゆをかけて食べる方法を作り上げたと言われている。この味は瞬く間に上田じゅうに広まった。修行でその味を身につける者、通い詰めてその味を盗む者…多くのやきとり屋がにんにくしょうゆにはまった。 (写真:美味(おい)だれは上田名物) 実は、このにんにくしょうゆだれのやきとりは、上田では当たり前すぎて、特別扱いされず、上田ではやきとりといえば、にんにくしょうゆだれで食べるのが当たり前で、料理名も、ただ「やきとり」だった。そんな中、2010年に市民有志が、この上田ならではの味を「美味(おい)だれやきとり」と命名した。 (写真:たっぷりのたれで食べるのが作法) その名前の由来は、まずはもちろん美味しいこと。「美味」をおいしいの「おい」と読ませるのは、漬け焼きではなくまさに追いだれだから。そして、上田地方の方言で、慣れ親しんだ仲間に対し「おまえたち」という意味で「おいだれ」と呼ぶことにも由来する。この三つの背景から、60年以上の歴史を誇る「上田のやきとりのたれ」が晴れて「美味(おい)だれ」となった。 (写真:美味(おい)だれは万能だれ 焼肉にも) そもそも戦後の発祥。またきちんとしたレシピで受け継がれた味ではないので、店ごとに微妙にその味が違う。食べる方としては、その味の違いを食べ歩く楽しみもある。にんにくとしょうゆはマストアイテムとして、創業当時から継ぎ足している店、毎年冬に仕込んで寝かせる店、リンゴなどの果物や野菜をすりおろしてまろやかな味わいに仕上げている店など、各店それぞれにこだわりがある。 (写真:老舗の人気店「つづらや」) 実際に何軒か食べ歩いてみよう。まず最初に足を運んだのは、昭和56年創業の老舗「つづらや」だ。人気店で、訪れた際も予約で一杯。予約客が来るまでならと入れていただいた。にんにくがガツンと効いたタレはもちろん手作り。美味(おい)だれを考案した宮下正三氏の味を娘さんと息子さんが受け継いでいる。一度にたくさん仕込んで寝かせることで、少しずつ味が変わっていくのも特徴だという。 (写真:塩焼きの串に美味(おい)だれを掛ける) 食べ方は、塩で焼き上がった串が皿に盛られて運ばれてくる。テーブルには壺に入った美味(おい)だれが用意されており、大ぶりのさじですくって串に掛けていただく。上から見るだけではさらさらのたれだが、大きなさじで下からすくうと、すりおろしにんにくが串の上に山盛りになる。これが実に刺激的な味だ。 (写真:ポテトサラダにもよく合う) 試しに、お通しのポテトサラダを、皿に垂らした美味(おい)だれと共に食べてみた。一瞬にしてポテトサラダが刺激的な味に変身した。メニューには餃子などもあった。餃子にもこのタレは合うだろうし、多分野菜炒めにも合うだろう。人気店はさもありなんだ。 (写真:串が見えないほどたっぷりのすりおろしにんにく) もう1軒、駅前に移動して「ゴールデン酒場」に河岸を変えた。「つづらや」が豚と鶏の串が中心だったので、まず野菜を注文した。タマネギとナスだ。「ゴールデン酒場」では、美味(おい)だれが予め串に掛けられて運ばれてきた。驚かされたのは、そのすりおろしにんにくの量だ。野菜が、すりおろしにんにくで見えないほどたっぷりとかかっている。 (写真:手羽先にもよく合う) さらに、手羽先美味(うま)だれ炒めも注文した。炒めと言いつつ、焼いた鶏の手羽先に、これまたたっぷりの美味(うま)だれが掛かっている。これをさらに、串の後に残った美味(うま)だれの残骸と合わせて食べていく。酒が止まらなくなる味だ。 (写真:上田電鉄の改札口直結) 上田では、エキナカでも美味(うま)だれやきとりが食べられる。JR東日本、しなの電鉄、上田鉄道の上田駅に隣接する上田電鉄改札口の目の前に「やきとり番長上田駅ナカ店」はある。土日祝日は、15時開店と昼酒も楽しめる。訪れた日も、開店と同時に複数の客が入店してきた。 (写真:串にはカップ酒の瓶に入った美味(うま)だれが添えられる) 「やきとり番長上田駅ナカ店」の最大の特徴は、「どぶ漬け」の美味(うま)だれだ。「つづらや」の自分でかけるスタイル、「ゴールデン酒場」の事前に美味(うま)だれが掛かっているスタイルに加え、大阪の串かつよろしく、テーブルのカップ酒の瓶にたっぷり注がれたたれに、焼き上がった串をドブンと漬けていただくのだ。 (写真:つくねをぼぶ漬け) もちろん「二度漬け禁止」。なので、串をたれの中に浸して、じばらく肉の間にたれを染み込ませて、皿の上に滴るようにたれをまとわせてからいただく。掛けるスタイルとは違い、すりおろしにんにくの量が少なくなるが、たれにたっぷりとにんにくの味が染みついているので、不足感はない。逆に、串ごとたれに浸すのが、ダイナミックでいい。 (写真:各店のたれの瓶詰めがずらり並ぶ) エキナカや駅前、史跡の上田城前の土産物店にも瓶詰めの美味(うま)だれが何種類も並んでいた。まさに上田を代表する味と言っていいだろう。愛媛県今治の鉄板で焼くやきとりや、北海道室蘭や埼玉県東松山の豚肉のやきとりなど、全国には個性的なご当地やきとりが多い。上田の美味(うま)だれやきとりも、そんなご当地やきとりの要注目の一品だ。