お祭り屋台の定番 山形のどんどん焼き (トップ写真) 水で溶いた小麦粉を鉄板で薄焼きにする粉ものは、子供のおやつとして、具はねぎと紅生姜のみなど簡素で、基本は空腹を満たすものとして、各地で食べられていた。しかし、東京などでは廃れてしまい、西日本では「はしまき」、北関東では、行田の「フライ」や桐生の「ぎゅうてん」などの形で食べ継がれている。東北では、山形を中心に「どんどん焼き」という名前で食べ継がれている。 (写真:どんどん焼き) 特に山形の内陸部では、地元のソウルフードとして愛されている。山形が特徴的なのは、広く親しまれていることはもちろんだが、東日本では行田のフライや岩手の薄焼きなど円盤状で食べるものが多いのに対し、関西同様、箸で巻く円筒状になっていることだ。 (写真:行田などでは円盤形) 山形のどんどん焼きの歴史を遡ると大正時代に至る。当時東京では、もんじゃ焼きを持ち帰り用に水分を減らし、生地を硬くしたものが食べられていたという。それを大場亀吉という人が、東京でその調理法を覚え、戦前、山形に持ち帰る。しかし、当初は経木にのせて売っていたが、子供達は熱くてそれを持つことができなかった。 (写真:焼き上がりをくるくると箸で巻き取る) そこで、大場さんは箸に巻くことを思い付き、自らナイフで木片を削って棒を作り、それに巻き付けて売るようになった。これが評判を呼び、山形のソウルフードとして定着した。どんどん焼きの名前の由来は、大場さんが、客寄せのためにどんどんと太鼓を打ち鳴らしながら商売をしていたからだという。 (写真:鉄板で縦長に焼き、割り箸で巻き取る) 調理法はシンプルだ。ボウルにお好み焼粉と水を入れ、よく混ぜ合わせて生地を作る。あらかじめ出しの素を入れておくと味が高まる。ホットプレートの温度は200℃。そこに油を薄くひき、生地を注ぐ。そこに揚げ玉を入れ、14×30センチほど縦長に広げる。広げた生地の奥の方に具材をのせる。具は、青のり、薄くスライスした魚肉ソーセージ、刻んだ紅しょうが、桜えび、そして焼き海苔。具をのせたら、フライ返しで軽く押さえる。裏面がきつね色になったら裏返してさらに焼く。全体に薄くソースやしょうゆなどたれを塗る。焼き上がったら、短辺の端を、割り箸を割らずにその隙間に挟み込む。これでくるくると巻き取ればできあがりだ。 (写真:「おやつ屋さん」) では実際に山形でどんどん焼きを食べてみよう。関東などでは廃れてしまったどんどん焼きだが、ネットで調べると、山形県内には結構な数の店で提供されていることが分かる。そんな中でも、山形駅から徒歩圏内で、しかもどんどん焼きの専門店として人気の高い店がある。「おやつ屋さん」だ。 (写真:焼いた表面にはカレールーを) 場所は山形城南追手前広場公園の向かい。駅からも徒歩数分だ。外見はこぢんまりした店構えだが、カウンター式のキッチンの裏には結構広い飲食スペースがあり、夜は居酒屋としても営業している。ここなら、焼きたてのどんどん焼きを皿にのせて、座って食べることができる。 (写真:「おやつ屋さん」のカレーどんどん) メニューは豊富だ。しょうゆかソース、味付けを選べるプレーンのどんどん焼きはもちろん、チーズどんどん、マヨどんどん、カレーどんどん、ピザどんどん、食べラーどんどんなど、様々なバリエーションが楽しめる。今回はカレーどんどんを選択した。 (写真:柔らかい焼きたては箸もすぐに抜ける) 奥のテーブルで待つことしばし、会計の時に渡された番号札が呼ばれた。皿には余白がほとんどなく、事前に想像していたよりも、かなりボリュームがあった。クレープよりは厚め、もちろんお好み焼きのような厚さではないが、それなりに食べ応えがある量になっている。 (写真:どんどん焼きを拡げてみると) 表面にカレー粉をまぶしてカレーどんどんかと思ったら巻く前の表面にはカレーのルーが塗り込まれていた。本来そういう食べ方ではないのだろうが、興味深さもあり、巻かれた薄焼きを逆にほどいていく中で、表面のルーを発見した。そして、その長さが意外に長いことにも驚かされた。 (写真:思った以上に空腹を満たしてくれる) 粉もので、しかもボリュームがあるので、食べると結構お腹が膨れる。軽いおやつ感覚でいたのだが、思った以上に空腹を満たしてくれる。カレーはもちろんだが、チーズやマヨネーズが加われば、さらに満足感も高まるだろう。おやつと呼ぶには、けっこう贅沢な味だ。 (写真:「CoCo夢や」) もう1軒、山形市の郊外、JR山形線・仙山線の羽前千歳駅に近い落合町にある「CoCo夢や」を訪ねた。食品スーパー「ヨークベニマル落合店」の一角にある。屋号の頭に「ラーメン」が付き、冷やしラーメンやチャーハンといった食事も提供する、スーパー内のイートインスペースだ。 (写真:魚肉ソーセージと海苔が目印) 同店ではプレーンのどんどん焼きを注文した。そのスタイルは、「おやつ屋さん」と大きくは変わらない。少し厚めの生地、薄くスライスした魚肉ソーセージと正方形に切られた海苔は、どんどん焼きの目印のような存在感だ。たっぷりの粘度強めのソースが、いかにも「こなもん」向きだ。 (写真:たっぷりの粘度強めのソース) 「CoCo夢や」では、店舗での販売だけでなく、イベント開催時のお祭り屋台、キッチンカーでの異動販売、さらにはネット通販も手がける。素朴な味だが、お祭に欠かせないなど、山形の人々の暮らしに深く根ざした食べもののようだ。価格も手頃で、店舗も多いので、山形を訪れた際には一度食べてみることをお薦めする。