やみつきになる分かりやすい味 札幌のちくわパン (トップ写真) 青森のイギリストーストや高知のぼうしパン、長野の牛乳パンなどは「ご当地パン」と呼ばれ、地元以外での知名度こそ低いものの、こと地元にあっては「パンと言えばこれ」という扱いになっているパンが全国各地にある。札幌では、ちくわパンが、地元民に広く愛されている。 (写真:新装開店したばかりの「どんぐり」本店) ちくわパンが誕生したのは、1985年ごろのこと。83年にに札幌市内で開店したパン店「どんぐり」の創業者のひとりが客と「お弁当のおかずはパンにもあうのではないか?」と話したことがきっかけだ。ちくわもお弁当のおかず。それをどうパンにするか。チーズやキュウリなどと合わせて試作を重ねた結果、ツナサラダとの相性が抜群に良かったという。こうして「どんぐり」の看板商品であるちくわパンは誕生した。 (写真:ちくわ+ツナサラダ×パン) 食べてみればすぐに分かるが、その味はシンプルに「ちくわ+ツナサラダ×パン」だ。もちろん、パン生地もツナサラダの味付けもちくわパンを想定しての調理だろうが、その味は決して奇をてらったものではない。シンプルな、普通のツナサラダとちくわが、何ともパンにぴったり合うのだ。そして、パンのふわふわ感とちくわの歯ごたえが絶妙の食感を生み出す。 (写真:コンビニのちくわパン) ポテトサラダを詰めた熊本のサラダちくわやキュウリを入れた高知のちくきゅうもそうだが、どうやら日本人はちくわの穴に何かを詰めて食べるのが好きなようだ。札幌でもツナサラダに限らず、「どんぐり」以外の店では、ちくわの穴に他の食材を詰めたオリジナルちくわパンも食べることができる。 (写真:店頭にずらり並ぶ人気商品) 実際にちくわパンを食べてみよう。まずは元祖店に敬意を表して「どんぐり」本店を訪れた。「どんぐり」は1983年10月に豊平区美園でオープン。92年10月には白石区南郷に移転し、住宅街の小さなベーカリーながら、圧倒的な販売数を誇る店舗として、全国から注目を集めるようになる。 (写真:「どんぐり」ちくわパン) その後、市内各地に次々と支店を開設。単なるベーカリーではなく、店内にカフェも設置。焼きたてのパンをその場で食べられるように店舗設計を工夫した。15年9月には大通に、23年11月にはススキノと札幌都心部にも支店を開設する。さらには、函館でも、地元店とコラボする形で進出した。 (写真:店内で焼きたてを食べることもできる) 「どんぐり」のちくわパンはひとつ200円。ふんわりとした食感で、惣菜パンとしては軽い部類に入るだろう。ツナサラダのマヨネーズも軽めで、油っ気のないちくわと相まって、さっぱりと食べられる。しつこくないのに、ツナサラダもちくわもちゃんと自身の存在を主張してくるから不思議だ。 (写真:パンの中にはツナサラダを詰めたちくわ) 「どんぐり」のちくわパンの人気の秘訣は、まず、ツナサラダには煮たタマネギを加えていること。これをマヨネーズで和えて、独特の食感を実現するため、ちくわパン専用に特注しているというちくわ1本1本に、手で詰めている。しかも、上にかけるマヨネーズも、焼いても溶けないものを選んで使っているという。 (写真:「どんぐり」人気ナンバー2の串ザンギ) 「どんぐり」は、札幌でも有数の人気ベーカリー。商品点数も多く、パンだけでなく、ちくわパンに次ぐ人気ナンバー2は何と串ザンギ。そう、北海道流の鶏の唐揚げをボリューム満点に串刺しにしてパンと並んで販売している。ほかいんもたっぷりとコーンの入ったパンなど、いかにも北海道らしいメニューが目白押しだ。ちくわパン以外にもつい手が伸びてしまう。 (写真:「セイコーマート」のちくわパン) そして、ベーカリーとは対極に位置すると言えるだろうコンビニエンスストアー「セイコーマート」のちくわパンも食べてみた。トングでトレーに取って買う「どんぐり」とは対照的に「セイコーマート」は透明なビニール袋に詰められた、いわゆる「袋パン」だ。そこがいかにもコンビニらしい。 (写真:ちくわの中は肉そぼろ) 賞味期限が3日間と長めのため、保存性が高められている点とあえてパンの端からちくわを長く露出させてちくわを強調している点が特徴だ。そして、ちくわに詰められているのがツナサラダではなく信州味噌の肉そぼろなのも特徴的だ。日持ちさせるためだろう、全体的に水分少なめだった。 (写真:雑居ビルの中にある「夜のしげぱん」) パンというと、朝食のイメージだが、それを覆すようなちくわパンもある。札幌一の歓楽街であるすすきのには、夜だけ営業するベーカリーがある。すすきのの中心、すすきの交差点にほど近い雑居ビルの中にある「夜のしげぱん」だ。路面ではなく、雑居ビルのドアを開けた中、まるでバーのようなスタイルで営業している。営業時間は、夕方の5時から明け方の4時までと、まさに「眠らない街」のベーカリーだ。 (写真:「夜のしげぱん」のしぶさん) 「夜のしげぱん」のちくわパンは、「しぶさん」という名前で店に出ていた。しかし、値札には「しぶさん」と名乗りながらも「明太チーズマヨのちくわパンです」とも書かれていた。呑んだシメに食べる大人のちくわパンといったところだろうか。明太子の辛みは、呑んだ後のシメどころか、酒のつまみにもなりそうな味だ。 (写真:ちくわの中は明太子マヨ) 札幌でこれほどに人気だが、やはりほかのまちではパンとちくわの組み合わせはやはりイレギュラーだ。とはいえ、一度食べてみれば、誰でもシンプルで分かりやすく後を引く味の虜になることは間違いないだろう。「どんぶり」ベーカリーながら住宅街だけでなく、大通やすすきのといった繁華街でも食べられるので、札幌観光の際には、ぜひ一度食べてみてほしい。やみつきになること請け合いだ。