ラーメンとかつ丼が融合 こさかまちかつらーめん (トップ写真) 鹿角の北にある鉱山のまち、小坂町。藤田財閥を源流とするDOWAホールディングス(旧同和鉱業)が本拠を構え、明治期から大正期にかけて鉱産額日本一を誇った。閉山後も輸入鉱石を原料に製錬を続け、今ではパソコンなどの廃家電から金属をリサイクルする事業を続けている。 (写真:威容を誇る小坂鉱山事務所) 同町のかつてのにぎわいは、国重要文化財にも指定されている、1905(明治38)年に建設された小坂鉱山事務所の威容を見れば分かるだろう。立派な洋館のそばには、巨大な木造の芝居小屋・康楽館もある。この町にはかつて、炭鉱で働く多くの人々が行き交っていたことが見て取れる。 (写真:「奈良岡屋」のかつらーめん) 閉山後は、かつてのにぎわいはないが、それでも毎年8月に開催される小坂七夕祭は盛大だ。そんな七夕祭の山車作りに携わる人々の提案で誕生したご当地グルメがこさかまちかつらーめんだ。とんかつをのせたボリューム満点のラーメンは、食欲旺盛な炭鉱で働く人々をルーツに持つ小坂ならではの食べものだ。 (写真:人気メニューの天丼大盛り) 実際に小坂でかつらーめんを食べてみよう。まずはかつらーめん発祥の店と言われる老舗「奈良岡屋」を訪ねた。看板に「日本料理」を掲げるように、同店は広い座敷もあり、ラーメンだけでなく、そばや、刺身、天ぷらなども扱う食堂だ。オープンキッチンの広い厨房の中央に大将が立ち、様々な料理を手がける。実はボリューム満点の天丼も人気メニューだ。 (写真:「奈良岡屋」のしょうゆラーメン) そんな和食系のお店だけに、ラーメンは極めてオーソドックスだ。生ハムを隠し味に使った、さっぱりとしながらもコクのあるしょうゆスープのラーメンだ。シンプルなしょうゆラーメンを見れば、そのオーソドックスさがよく分かるだろう。 (写真:隠し味の生ハム) そんなラーメンにトッピングされたかつはかつ煮だ。ラーメンにかつをのせるパターンはたまに見かけることがあるが、たいていは、揚げたカツをそのまま切ってのせるパターンだ。かつ煮にしてからトッピングするのは珍しい。カツオだしの効いた卵とじにしたかつは、かつだけでもとても美味しいのではと思わせる味わいだ。 (写真:かつには桃豚を使用) カツに使っているのは、地元のブランド豚である桃豚だ。風味豊かで保水性に富み、豚肉独特の臭みがないといわれるSPF(特定の病原体をもっていない)豚肉で、とても柔らかく、味わいも深い。しっかりと脂をまとったロース肉なのだが、不思議と脂っこさがない。肉質の良さが、かつにしても実感できる。 (写真:麺量が多い) 地方都市の食堂にありがちだが、細めの麺は量がかなり多い。その上に、ボリューム感のあるカツにが乗っているので、かなり満足感の高いメニューだ。卵とじも味がしっかりしていて、かつ煮の添え物ではあるものの、ラーメンの具の一つとして楽しめるほどだ。 (写真:「ドライブイン下野」のカツラーメン) 続いて「ドライブイン下野」を訪れた。国道292号線沿いにあり、広い駐車場もあり、トラックなどの運転手が、ここで空き腹を満たすのだろう。カツラーメンが、多種並ぶラーメンメニューの筆頭にある。同店の特徴は、なんと味噌ラーメンの上にかつ煮がのっていること。 (写真:味噌味のかつ煮をトッピング) かつ煮がなくとも、味噌ラーメンとして、かなりレベルが高い味と感じた。スープにはコクがあり、炒めもやしや挽肉も入ったまっとうな味噌ラーメンだ。その上に、かつとじがのる。カウンター越しに調理を注視していると、かつ煮の味付けもしょうゆではなく味噌を使っていた。それだけに、味噌ラーメンとかつ煮の相性もいい。 (写真:味噌ラーメンとしてもレベルが高い) 最後にトッピングされたコチュジャンが、またいい仕事をしている。ラーメン全体をぴりりと締める味だ。コクのあるスープがますます、うまくなる。そのスープに絡まる独特の太麺の上もまたいい。さらに、小鉢に紅ショウガが添えられていて、これをのせて麺をすすると、なかなかいい「味変」になる。 (写真:コチュジャンが味のアクセントに) 正直、かつ煮と味噌ラーメンの組み合わせは、食べる前は半信半疑だったが、食べ終えた後は、その絶妙のマリアージュに感心した。価格も850円とお値打ちで、わざわざ食べに出かける価値のある一杯と感じだ。 (写真:「伊勢家大昌園」のがんばるかつ麺) 最後は、焼き肉屋で食べるかつらーめん。「伊勢家大昌園」の桃豚かつらーめんは、「奈良岡屋」同様、地元ブランド豚の桃豚の肉をかつに使用する。がんばるかつ麺は、焼き肉店らしくコチュジャンを効かせたまっかなかつらーめんだ。 (写真:カルビクッパ風のかつらーめん) 同店はかつ煮ではなく、揚げたままのかつがトッピングされていた。しかし、スープの方にカルビクッパ風にた溶き卵が入れられていた。かつらーめんと溶き卵は、どうやら相性がいいようだ。ピリ辛のスープが食欲をそそる。 (写真:鉱石を運んだ鉄道も保存されている) こさかまちかつらーめんは、鉱山由来ではない、後に開発されたメニューだが、鉱山のまちならではのボリューム感にあふれていた。決して交通の便がいいとは言いにくい小坂だが、かつ煮をのせたラーメンは、なかなか小坂以外では味わえない。その不思議な魅力と美味しさを求めて、ぜひ小坂に足を運んでもらいたい。