究極のオーソドックス 白河ラーメン (トップ写真) 福島県白河市は、市内には約100軒のラーメン店が軒を連ねるラーメンシティだ。コシがある手打ち麺と味わい深いしょうゆ味のスープが特徴で、そのスタイル・味は非常にシンプルでオーソドックスだ。トッピングもチャーシューとワンタンが基本。奇をてらったところがない正統派のしょうゆラーメンだが、職人気質のこだわりで、非常に完成度の高い、上質な味を生み出している。 (写真:トッピングはチャーシューとワンタンが基本) 白河ラーメンの歴史は、明治時代にさかのぼる。全国のご当地ラーメンの多くは屋台にルーツを持つが、白河では店舗、「亀屋」というお汁粉屋からスタートしている。1887(明治20)年に創業するものの、特に夏場はお汁粉の売れ行きが悪かった。そこで、店主の息子である木伏源松氏が、ラーメンの販売を思いつく。横浜での修業を経て、1921(大正10)年に白河で初のラーメン店として「亀源」を創業する。 (写真:中心街にある「亀源」跡の看板) 日本最初のラーメン店と言われる「淺草來々軒」の開業が1910(明治43)年なので、白河ラーメンのけっこう歴史も長い。残念ながら「亀源」は1代限りで店を閉じてしまう。現在の白河ラーメンの礎を築いたのは、1969(昭和44)年創業の「とら食堂」だ。とらさんこと竹井寅次氏が屋台での修行を経て開業、ここで多くの弟子を育て、弟子たちが独立する形で白河には多くのラーメン屋が店を開くことになった。 (写真:「とら食堂」) そんな、白河ラーメンの基本とも言える「とら食堂」をまず訪ねた。全国にその名を知られ、白河ラーメンの顔とも言える店なので、その混雑ぶりは壮絶だ。開店時間は午前11時。お昼どきの11時45分に店に到着すると、入り口脇にある整理券発行機には、入店できる時間の目安として「14時」と掲げられていた。2時間以上待ちということになる。 (写真:整理券を撮って待つのがルール) ちなみに、整理券の発行開始は朝8時30分とのこと。8時ちょうどに店へ行くと、すでに4人が行列していた。ただ、整理券さえ確保すれば、店の前で長時間待つ必要はないので、整理券を入手してから市内観光などして時間調整するつもりで出かけると良いだろう。 (写真:シンプルでオーソドックスなラーメン) そのラーメンは、実直そのもの。奇をてらったところはひとつもない。見た目はごく普通のしょうゆラーメンだ。しかし、スープをひとくち、麺をひとすすりすれば、その高い完成度に驚かされるはずだ。その背景にあるのが、まさに職人気質と言えるこだわりだ。食材はオーソドックスながら、調理は徹底してこだわる。 (写真:硬すぎず、柔らかすぎずの手打ち麺) 手打ちの麺は、硬すぎず、柔らかすぎず。「とら食堂」の麺の加水率は、夏場で42%から冬の寒い時期で48%という。一般的に麺の加水率は、機械製麺なら40%以下、手打ちなら50%程度という。機械製麺では柔らかすぎ、手打ちとしては硬すぎの加水率が唯一無二の食感を生み出している。均一に水が回せる技術があるからこそできる「人間が手打ちでできる限界の加水率」だという。こうして練り上げた麺塊を1時間寝かせてから足踏みして製麺する。 (写真:出しは豚骨、鶏ガラ、少量の昆布のみ) 出しは豚骨、鶏ガラ、少量の昆布のみで、野菜や香味野菜は使わない。豚骨をまず蒸して、うまみを引き出す。その後、できる限り潰したてを使うという鮮度にこだわった鶏ガラを入れ、昆布だしを割り湯として加え、ゆっくり加熱する。鶏油は熱で劣化するため、いったん取り出して後から加える。加熱は1時間半ほど。長時間加熱すると臭みが出るそうだ。チャーシューの煮汁であるかえしは、シンプルに肉としょうゆだけだ。 (写真:淡泊な味わいのチャーシュー) チャーシューは、豚の内もも肉を、煙が少なく火の回りが早い楢炭で焼き、肉と同量の醤油で煮る。内もも肉は脂身が少なく、また、あえてスモークを避けて焼くため、淡泊な味わいに仕上がる。麺、スープ、そしてチャーシュー、すべての面で食材が持つ可能性を最大限に引き出す調理法と言えるだろう。 (写真:「松戸分店」の焼豚ワンタン麺味玉入りはボリューム満点) ちなみに、長時間行列必至の「とら食堂」だが、首都圏なら松戸に分店がある。北総鉄道松飛台駅の目の前にあり、もちろん行列は必至だが、白河ほどの大行列ではない。まずは、本場仕込みの分店で味を確かめるのもいいだろう。 (写真:真っ赤な暖簾が目印) 白河でラーメンの「御三家」といわれているのは「とら食堂」と県外のとら系の店で修行後、「とら食堂」の了解を得て白河に店を出したという「手打中華やたべ」、そして地元では非とら系と呼ばれる「火風鼎(かふうてい)」だ。せっかく白河まで足を運んだからには、非とら系の味も確かめてみたい。 (写真:並んで待つのが基本) 「火風鼎」も行列店として名高い。しかし、整理券や順番を記入するノートなどはない。ひたすら並んで待つのがルールだ。開店時間11時で、9時前に店に着くとすでに先客が待っていた。ただし、店頭にはテントがあり、椅子も用意されていて、腰掛けて待つことができるようになっている。冬用に暖房の入る小部屋もある。 (写真:「火風鼎」の手打チャーシューメン) 非とら系の代表格らしく、「火風鼎」はやはり「とら食堂」とは違い、オーソドックスでありながらも、要所要所にエッジが効いた味わいが特徴だ。スープは「とら食堂」よりやや味濃いめ、しょうゆがしっかりと舌に伝わってくる。浮いている脂の量も「とら食堂」より多めだ。 (写真:しっかりコシがある麺) 手打ちの麺もよりエッジが効いている。コシがかなり強い。「とら食堂」がもっちりとした手打ちならではのコシなのに対し、「火風鼎」はしっかりと芯が感じられるアルデンテといったところだろうか。 (写真:スモーキーな究極のチャーシュー) 「火風鼎」は、看板に「究極のチャーシュー」を掲げ、チャーシューメンをおすすめメニューとしている。炭火焼きのチャーシューがスモーキーだ。やはり脂身は少ないが、ちょっとくせの強い味に仕上がっている。ちなみに、早い時間から待ったからだろうか「わんたん2つおまけね」と注文していないワンタンを入れてくれた。麺のコシとは対照的なとろけるようなワンタンだった。 (写真:とろけるようなワンタン) 白河は、約100軒ものラーメン店がありながら、密集していないのも特徴で、「とら食堂」も「火風鼎」も郊外にぽつんとある。人気店は、それなりに離れた場所にあるので、食べ歩きには車は不可欠だろう。それだけに、各店とも広い駐車場を完備している。福島県とは言え、栃木県境も近いだけに、首都圏からなら日帰りでの食べ歩きも可能だ。行列対策をしっかりとしてから、ドライブがてら出かけるといいだろう。