マタギの味 秋田のきりたんぽ (トップ写真) きりたんぽ鍋は、秋田県を代表する味として知られ、誰もが鍋を思い浮かべるだろうが、実はそのルーツは携帯食だった。山がちな内陸の、大館・鹿角地方が発祥の地で、炭焼きや伐採、狩猟のために山に入った人々が、保存食として、残り飯をつぶして棒に刺して携帯していた。これを山の中で温めて食べるためにたき火で焼き、みそだれをつけて食べた。このみそ付けたんぽがきりたんぽのルーツだ。 (写真:マタギの食がルーツ) このたんぽを、マタギ(狩人)が、獲物の鳥獣の鍋に入れて食べたことから、きりたんぽ鍋が生まれたと言われている。焼いたたんぽを切ることから、「切りたんぽ」と呼ばれるようになったという。きりたんぽ鍋を食べる前に、まずは、きりたんぽのルーツであるみそ付けたんぽづくりを体験することにした。ちなみに、串に刺し焼いたご飯ががまの穂に似ており、短い穂の意味である「短穂」から「たんぽ」と呼ばれるようになったとされる。 (写真:みそ付けたんぽ作りの材料) 訪れたのは、鹿角市の中心市街地にある「道の駅かづのあんとらあ」だ。この中の手作り体験館で、2名以上からみそ付けたんぽ作りが体験できる。まず用意するのは、炊きたてを、瓶の底などで半分程度潰した、「半殺し」と呼ばれるご飯だ。丸い少し小さめのおにぎりを作り、串に刺す。ちなみに、おにぎりを刺すのは先の尖った方ではなく、太いままの方だ。先がすぼまっているのは、囲炉裏の灰に刺すためなのだそうだ。 (写真:串におにぎりを刺す) 串に刺したおにぎりは、串に沿って少しずつ伸ばしていく。ある程度伸びてきて棒状になってきたら、まな板の上で、手で押さえながらごろごろ転がすと、よりきれいに、丸いたんぽになる。串がたんぽから突き抜けないように注意が必要だ。 (写真:串に沿って長く伸ばす) たんぽができあがったら、根本の部分をしっかり固めていく。これをしないと焼いている最中に、根本の部分からたんぽが崩れてしまう。また、根本の部分は焦げやすいので、焼きに入る前にアルミホイルで包むといいそうだ。 (写真:まず表面を乾かしてから焼き網の上へ) 続いて焼きだ。いきなり、たんぽを網の上に置くと、焼き網にくっついてしまう。しばらく焼き網から少し離して炙り、表面が乾燥するのを待つ。表面がしっかり乾いたら、網の上にのせて焼いていく。しばらく炙ったら、少し回転させる。あまり早く回転させると、たんぽに焼き目が付かないので、注意が必要だ。 (写真:刷毛でみそだれを塗りつける) いい感じで焼き色が付いてきたら、刷毛でみそだれを塗りつける。たれは、味噌と砂糖、みりん、しょうゆを合わせたもの。秋田県は米が豊かで、収入も多かったせいか、昔からぜいたくといわれた甘い味を多用する。たんぽのたれも甘み強めだ。ボウルに張ったたれの中に、焼き上がったたんぽを入れて塗ると塗りやすい。 (写真:できたて熱々のみそ付けたんぽ) 最後、たれが乾くまで再度焼けば完成だ。甘みが立って、香ばしい、ほくほくの焼きたてみそ付けたんぽはとても美味しい。鍋に入れて食べる切りたんぽとは、別ものだ。 (写真:花輪ばやしの屋台) ちなみに、「道の駅かづのあんとらあ」の祭りの展示館には、日本三大ばやしの一つである花輪ばやしの屋台が一堂に展示されている。花輪ばやしは、毎年8月19−20日に開催され、日本一の祭り囃子とも称賛される鹿角最大のお祭りだ。鉱山を中心とした、往時の鹿角のにぎわいぶりが肌で感じられる。 (写真:「きりたんぽ専門店元祖むらさき」) さて、ルーツであるみそ付けたんぽを味わったら、次はきりたんぽ鍋だ。鹿角がみそ付けたんぽ発祥地だが、きりたんぽ鍋については、大館が本場だ。大館に移動し、「きりたんぽ専門店元祖むらさき」で本場のきりたんぽ鍋を味わった。 (写真:セリの緑が色鮮やか) 材料は、切った焼きたんぽ、比内地鶏、ねぎ、セリ、まいたけ、ささがきのごぼう。これを比内鶏のスープで煮込んでいく。セリの緑が色鮮やかだ。きりたんぽはしっかり煮込まれてはいるが、きちんと焼きが入っているので煮崩れることはない。比内地鶏の上質なスープをしっかり吸い込んで、とても美味しい。 (写真:味の染みたきりたんぽ) 比内地鶏の肉も味わい深い。地鶏と言いながら、思ったほどは硬くはない。さすがは比内地鶏の本場が市内にあるだけのことはある。比内地鶏は、キジや山鳩に肉の組織が似ていて脂がきめ細かく、たんぽとの相性は抜群だ。 (写真:うまみが強く、硬すぎない比内地鶏) きりたんぽ鍋のカギを握るこの比内地鶏だが、実は比内鶏が、秋田県産種の鶏として国の天然記念物に認定され食べられなくなった時期があった。当時の比内町の町長の発案で「比内地鶏」が誕生、再び家庭の味として復活したという。ありがたい話だ。 (写真:秋田は酒どころ) 米が豊かな秋田は酒どころでもある。雪深い気候だが、雪解け水が米を育み、湧水は酒を美味しくしてくれる。同じ米を原料とするきりたんぽとの相性もいい。きりたんぽ鍋をつまみに、秋田の美味しい日本酒を味わうのもおすすめだ。