隠れたご当地グルメ 仙台の冷やし中華 (トップ写真) 夏が近づいてくると食べたくなるのが冷やし中華だ。「中華」と名が付き、中国料理店で主として売られているが、実は日本発祥で、本来、中国には冷やし中華はない。そのルーツは、戦前に遡る。仙台の「龍亭」と東京の「揚子江菜館」でほぼ同時に誕生したとされている。仙台は、まちを挙げて「冷やし中華発祥の地」をうたっており、冬でも冷やし中華を提供し続ける店が多い。 (写真:東京「揚子江菜館」の冷やし中華は富士山盛り) 冷やし中華といえば、茹でた中華麺を冷水で締めるなどして冷たくした物を皿に盛り、トマトやキュウリなどの夏野菜や茹でたモヤシ、さらにはチャーシューやハム、錦糸卵などの色鮮やかな具材をのせて、冷たい酢醤油、胡麻だれ、味噌だれなどをかけて食べるもの。薬味には紅生姜、からしやマヨネーズを添えることも多い。このスタイルは、仙台でも東京でも大差はない。おそらく同時発祥ではないだろうか。 (写真:定禅寺通り沿いにある「龍亭」) 今回は仙台の冷やし中華について見ていくことにしよう。まずは元祖店に敬意を払って「龍亭」から。同店は、1937年に創業。創業者・四倉義雄の資料には「昭和12年、全国の業界に先駆けて、涼拌麺を開発し」 と記されている。当時の中華料理は、油っこく熱いというイメージが強く、夏場は敬遠されがちだったという。そこで、暑い中でも食べやすい冷たい麺料理が開発されたという訳だ。 (写真:「龍亭」の涼拌麺) 「龍亭」では、冷やし中華を涼拌麺(リャンバンメン)と呼ぶ。夏バテ防止の観点から栄養のバランスを考え、 野菜をふんだんに取り入れた。冷たいだけでなく、酸味を加えることで食欲が増すなど、暑い中でどう食べてもらうかの試行錯誤を繰り返した末に誕生したそうだ。 (写真:涼拌麺は具材が別盛り) 「龍亭」の冷し中華の特徴は、具材と麺を別に盛り付けていること。横長のガラス皿にクラゲ、蒸し鶏、ハム、キュウリ、チャーシュー、錦糸卵がきれいに盛り付けられている。さらに別の器にエビがトッピングされた麺、レタスも添えられている。 (写真:食べ方はお好み次第) たれはしょうゆか胡麻だれを好みで選べる。食べ方にルールはない。添えられた具材をいっぺんに麺の上にのせてもいいし、少しずつ麺と合わせても構わない。さらには、具材を前菜として、冷酒やビールをいただき、最後に麺を食べるという食べ方でも構わない。すべてお好み次第というわけだ。 (写真:「中国美点菜彩華」のクラゲ入り五目冷やし中華) 国分町にある「中国美点菜彩華」も冷やし中華の人気店だ。海鮮を豪華に使ったクラゲ入り五目冷やし中華が人気だ。具材は麺の上に富士山盛りになっている。蒸し鶏、ハム、キュウリ、錦糸卵に加え、エビにカニ、さらにはメニュー名にもなっているクラゲがトッピングされている。 (写真:胡麻だれをたっぷりとかけて) たれはやはり、しょうゆか胡麻だれを好みで選べる。胡麻だれは別容器に入れて配膳された。さらっとした胡麻だれが爽やかだ。タレの量もたっぷりで、具材や麺を十分にたれに浸して食べるといっそう美味しさが広がる。「中国美点菜彩華」は、ジャスミン茶がポットで提供される点も魅力だ。 (写真:「台湾中国料理燕来香」の海鮮冷やし中華) 海鮮をさらに楽しみたければ「台湾中国料理燕来香(エンライシャン) 」もおすすめだ。海鮮冷やし中華にはイカやカニ、エビなどの海鮮がたっぷりとのっている。高級店なので、さすがに値が張るが、海鮮を楽しみたい向きにはいいだろう。たれはやはり、しょうゆと胡麻だれから選ぶスタイルだった。 (写真:仙台のエキナカにある「中嘉屋食堂麺飯甜」) 仙台駅構内でも名物の冷やし中華は食べられる。駅ビル新幹線ホームの下の1階にある「中嘉屋食堂麺飯甜(ミンパンティン)」だ。同店の冷やし中華は、ちょっと変わり種だ。今回食べたのは、つゆだく冷やし中華。冷やし中華ながら、汁がたっぷり、飲める冷やし中華だ。 (写真:「中嘉屋食堂麺飯甜」のつゆだく冷やし中華) チャーシューを刻まずにトッピングするなど、一見して汁麺の見た目だが、味は冷やし中華そのままの味だ。ごま油と酢が効いた冷やし中華味のスープは、味こそ冷やし中華のしょうゆだれだが、飲めるように濃度が調整されている。蓮華でスープをすすりながら食べる冷やし中華は、ちょっと珍しいが、けっこう美味しい。 (写真:飲む冷やし中華) エキナカということで、価格設定もリーズナブルで、大盛りは無料だ。発車時間を待つ間にささっと冷やし中華が食べられる。実もう1種類冷やし中華を名乗るメニューがあった。仙臺みそ冷やし中華そばだ。冷やしでみそは珍しい。次回訪店した際に食べてみようと思った。 (写真:「東洋軒本店」の冷やし中華) 最後は町中華の冷やし中華だ。国分町にある「東洋軒本店」は飲み屋街にある町中華で、シンプルな具がオーソドックスで、いかにも町中華の冷やし中華といったスタイルだ。紅ショウガ、カラシに加え、マヨネーズが添えられているのも大衆店らしい。スプーンが添えられているのは、たれを味わってほしいということだろうか。酸味の効いた爽やかな味だった。 (写真:仙台の名物メニューの一つ) 東京と仙台、どちらが発祥かは判然としないが、東京に比べ仙台では、冷やし中華を「わがまちの名物料理」とする意識が強いように感じた。提供店も多く、バリエーションも豊かだった。牛たんなど、仙台に行った際はぜひ食べておきたいご当地メニューは多いが、冷やし中華もそのひとつに加えてみてはいかがだろうか。