シンプルな辛ウマ 「さいたまのスタミナラーメン」 (トップ写真) 北海道札幌のみそラーメン、九州のとんこつラーメン、あっさり味の福島・喜多方ラーメンなど全国各地に点在する「ご当地ラーメン」。とんこつラーメンが九州から一部広島にまでおよぶ広域で食べられている一方、千葉・勝浦タンタンメンなどごく限られた狭い地域だけで食べられているものも多い。今回ご紹介するのは、さいたま市のスタミナラーメン。旧大宮市、旧浦和市、そして上尾市の限られた地域ながらも、けっこうな店舗数で提供されているさいたまのご当地ラーメンだ。 (写真:シンプルなラーメン) 関東でスタミナラーメンというと勝田で発祥、現在は水戸を中心に広く茨城県内で食べられているスタミナラーメンもよく知られているが、隣県にもかかわらず、茨城と埼玉のスタミナラーメンはまったくの別ものだ。「ピリ辛」の餡かけラーメンという点こそ共通しているが、濃厚で具だくさんの茨城のスタミナラーメンに対し、埼玉のスタミナラーメンは、醤油味のスープに、ニラ、挽肉、豆板醤を入れた、よりシンプルなラーメンだ。 (写真:水戸のスタミナラーメン) さいたまのスタミナラーメンは、1970年代から80年代にかけて、大宮にあった「漫々亭」および浦和の「娘娘(にゃんにゃん)」で誕生したとされる。現在、大宮の「漫々亭」は閉店してしまったが、大宮地区では指扇に、同店で修行経験のある店主が「漫々亭」の看板を掲げ、その味を守り続けている。 (写真:汁なしあんかけバージョンも) 一方で浦和地区には「娘娘」の看板を掲げたお店が複数ある。しかしチェーン店ではなく、それぞれが、自らのスタミナラーメンを提供している。中には代替わりを期に「娘娘」の看板を下ろす店も出てきている。名古屋の台湾ラーメンも「味仙」の看板を掲げる店が複数あるが、それぞれが独立していて、味も微妙に違っているのと同様のケースだ。それだけに、同じスタミナラーメンながら、さいたま市周辺でそのバリエーションを食べ比べられるのも魅力のひとつとなっている。 (写真:豆板醤で辛くした中華あん) スタミナラーメは、細麺の上にスープ、さらにその上に中華あんがのっている。あんの中身は挽肉とニラ。これをニンニクとショウガで香り付けをし、豆板醤で辛くしたものだ。麻婆豆腐のあんだけと言うと分かりやすいかもしれない。味も、辛さこそあるものの、きわめてあっさりだ。 (写真:水は各店ともセルフサービス) 「娘娘」「漫々亭」の屋号にかかわらず、いずれも庶民派価格の街中華、いや街中のラーメン店というと分かりやすいだろう。非常に敷居の低い店構えが共通している。その証とも言えるのが水のセルフサービス。水は自分でコップに注ぐのがルールだ。 (写真:「娘娘上尾井戸木店」) その微妙な違いを確認しよう。北から順に南下していこう。まずは、上尾市にある「娘娘上尾井戸木店」だ。上尾と言いながら最寄り駅はJR高崎線の桶川駅になる。店は住宅街の中にある。近隣の住民たちの普段使いの食堂と言った風情だ。 (写真:「娘娘上尾井戸木店」のスタミナラーメン) 「娘娘上尾井戸木店」のスタミナラーメンは、辛さ控えめ。スタミナあんの挽肉はあまり細かくほぐしていない。シンプルなしょうゆラーメンにあんを掛けただけといったスタイルだ。まずはスープだけすすってみる。シンプルながらも非常に美味しいスープだ。豚げんこつ、鶏がらを使った動物系スープと煮干し、枯節を使った魚介系スープのダブルスープとのこと。スープが味わい深いだけに、あまりあんをスープに馴染ませないようにして食べ進んだ。 (写真:麺にしっかりあんを絡ませて) トッピングされたスタミナあんは国産ニンニク、ショウガなどの薬味をしっかり効かせてある。ベースのスープと混ぜることで、こくやうま味を加えている。辛いもの好きにはちょっと物足りないほどの辛さだが、あえてラー油は加えなかった。あまり辛くすると、せっかくのスープの味が乱れてしまいそうな気がしたからだ。スープをしっかり味わいつつ、麺にしっかりあんを絡ませて食べ進んだ。 (写真:指扇の「漫々亭」) 続いては指扇の「漫々亭」だ。最寄り駅はJR川越線指扇駅だが、場所は駅から結構離れた住宅街の中にある。大宮の元祖「漫々亭」はすでに閉店してしまっているが、そこで修行経験を持つ店主が、店頭に「福田師匠最後の愛弟子/伝統の味守ります」と掲げて営業している。 (写真:今は亡き元祖「漫々亭」の冷水機) スタミナラーメン=水はセルフサービスと紹介したが、「漫々亭」はウォーターサーバーではなく、懐かしい学校の廊下や駅の一画にあったあの「冷水機」だ。足でレバーを踏むと冷たい水が供される。そうそう、今は亡き大宮の元祖「漫々亭」も冷水機だったっけ。これも「漫々亭」の伝統なのだろうか。 (写真:「漫々亭」の辛スタミナラーメン) 辛さ控えめの「娘娘上尾井戸木店」の後だけに辛スタミナラーメンを注文した。ラーメンどんぶりは明らかに真っ赤に染まっている。今は亡き元祖「漫々亭」はあんがたっぷりめだった記憶があるが、指扇の「漫々亭」は、他の「娘娘」と大きな差はなく、普通のラーメンの上にあんをのせたスタイルだった。 (写真:辛美味しい) さすがに結構辛い。食べ進むうちに鼻水が出てくる。とはいえすすると咽せるほどの辛さでもない。辛美味しいといった感覚だ。スープの縁に張り付くようにニラもたっぷりだ。辛めが好きな人にはお勧めだろう。 (写真:「漫々亭」の定番) 店一番の人気はスタミナラーメンに半バラ丼あるいは半スタ丼、ギョウザ3個がセットになった定番だ。日を改めて食べてみた。スタミナラーメンは冷やしスタミナメンも可能だ。しっかり味の効いたあんは、冷水で締めた中華麺に直接かけてもちょうどいい。モヤシも加わって、食感もいい。熱くなってきたら、冷やしスタミナメンもいいだろう。 (写真:「漫々亭」の半スタ丼) ご飯にスタミナあんをかけたハーフのどんぶりも、あんの味の濃さが白飯にちょうどいい。「漫々亭」ではスタミナ丼、略してスタ丼の名称だが、ご飯の上にカレーのルーのようにスタミナあんをかけて食べるため、「娘娘」各店ではスタミナカレー、略してスタカレーと呼ばれている。 (写真:「娘娘武蔵浦和店」) 最後に浦和の「娘娘」を訪ねてみた。今回はJR埼京線・武蔵野線の武蔵浦和駅前の武蔵浦和店を訪ねた。スタミナあんは挽肉が細かくほぐされているのが特徴で、あんの辛味は結構強かった。試しにあんをよくスープに馴染ませて食べてみたが、そうするとせっかくのあんのとろみが緩んでしまった。やはりあんを麺に絡めつつ、スープもしっかり味わう方が美味しいと感じた。 (写真:「娘娘武蔵浦和店」のスタミナラーメン) 半スタカレーは、辛味が強い分白飯に最適だった。あんだけの大盛りもできるそうなので、半スタカレーのあん大盛りで食べてみたかったと後悔した。それほど、白いご飯に良く合うのだ。 (写真:「娘娘武蔵浦和店」の半スタカレー) 提供店の地域が非常に限られている上、圏外ではなかなかお目にかかることができないさいたまのスタミナラーメン、スタミナカレー。シンプルながらもくせになる味だ。近くを訪れた際にはぜひ味わってみてほしい。