目にも舌にも驚き 「桐生のひもかわ」 (トップ写真) 普段からよく食べる麺類。ひとことで麺といってもそのバリエーションは幅広い。そば、パスタ、中華麺、うどん…うどんの中でも乾麺と生麺、さらにはきしめんなど幅広いものもあり実にバリエーション豊かだ。そんなうどんの1種にひもかわがある。群馬県の桐生で誕生した幅が広く薄い麺だ。 (写真:幅が広く薄い) 以前にご紹介した群馬の郷土料理・おっきりこみにも使われる麺で、厚みは1ミリ程度ながら、太さはうどんをはるかに越え、10ミリ、さらには10センチにまで至る超幅広麺まである。一見食べにくそうだが、薄いので、つるんとのどごしよく食べられるのも特徴だ。その呼び名は、諸説あるが、きしめんのルーツといわれている「芋川(いもかわ)うどん」がなまったものと言われている。食べ方は様々。ゆであげた麺を冷水で締めつけ汁に浸したり、熱い汁に浸して「かけ」として食べたり、おっきりこみのように地場産の野菜とともにしょうゆベースの汁で煮込んだりする。 (写真:「藤屋本店」の旧店舗) 実際、桐生でひもかわを食べてみよう。まず訪れたのは、歴史的建造物がずらり並ぶ本町通に面し、1887(明治20)年創業と100年を超える歴史を誇る「藤屋本店」だ。戦後、桐生の繊維産業の繁栄とともに繁盛し、人気店となった。2009年に旧店舗に隣接して新店舗を建設するが、旧店舗は現在も残され、その歴史の深さがうかがい知れる。 (写真:「藤屋本店」の豚せいろ) 早速ひもかわをいただこう。メニューは基本、かけうどん、つけめん(麺冷汁温)、そしてせいろ(麺冷汁冷)の3種。それぞれ麺は、うどん、そば、日も皮から選択する。基本はせいろのようだ。豚せいろを注文した。 (写真:ガラス越しに見る麺打ち) カウンター席で料理の到着を待つ。ふと脇を見ると、ガラス越しに麺打ちの様子が確認できた。打ち終えたひもかわを木の枝のような棒に吊している。いや、長い。まるで着物の帯のような長さだ。これを茹でるとどうなるのか。 (写真:驚くほど長い) 豚せいろが運ばれてきた。きれいに畳まれて盛られたひもかわからはその長さが伝わってこない。つけ汁に浸すべく麺を持ち上げて初めてその長さに驚かされる。日も川の一部を箸でつまんで持ち上げてみる。けっこう高く持ち上げたにもかかわらず、その箸は、まだせいろの上にあった。これをつけ汁に浸して食べる非常に薄く伸ばされているので、つるつると口の中に吸い込まれていく。非常に薄いのだが、しっかりとコシがある。麺そのものが非常に美味しい。 (写真:つけ汁も絶妙) さらにつけ汁が絶妙だ。そばでも、中華でも、せいろのそばつゆは濃いめが一般的だ。しかし「藤屋本店」のつけ汁は、かけの知るかと思うほどの柔らかい味わいだ。そのまますすっても、しょっぱくはない。普通ならつけ麺の汁としては物足りないと思うほどの味わいだが、それでも長いひもかわに絶妙に合うのだ。これなら「追いスープ」も「そば湯」も不要で飲み干せるだろう。 (写真:「めん処酒処ふる川暮六つ」) 次に訪れたのは、東武線相生駅そばにある「めん処酒処ふる川暮六つ」だ。大人気店のようで、開店の30分ほど前に訪れたが、すでに店頭に置かれたノートから10人以上が待っていることが判明。あわてて名前を書いて順番を確保した。 (写真:「温」の肉なすをひもかわで) 注文の仕方は、冷たい麺を冷たい汁に浸して食べる「つけ冷」、熱い汁に浸して食べる「つけ温」、あたたかい汁に入ったまま提供されるいわゆるかけの「温」、さらには冷たいタレがかかった「冷やし」の4パターンから食べ方を選び、その上で、そば、うどん、ひもかわから麺を選択する。 (写真:小鉢に移さないと食べにくい) 雪のちらつく日だったこともあり、「温」の肉なすをひもかわでいただくことにした。待つことしばし、運ばれてきたひもかわに驚いた。麺と言うよりピザ生地に近い面積だ。幅が10センチもあるという。例えて言えば「コピー用紙大」だ。箸で引き上げると、布巾のような大きさだ。 (写真:コピー用紙大) もちろん非常に薄いのだが、やはりしっかりコシがある。箸で引き上げてもちぎれることはない。最初口に入れる際には、その幅広さにちょっと戸惑うが、噛むとしっかり歯ごたえがあり、それでいて表面はつるつるしていてのどごしよく食べられる。麺そのものが、非常に美味しい。 (写真:豚肉の脂もいい塩梅) それにも増して美味しいのが汁だ。和風の出しの味わいがしっかりしていて、味付けも濃からず薄からず、絶妙の塩梅だ。れんげですすると止まらなくなる。豚肉の脂も汁に染みだし、これまたあっさりしすぎず、しつこすぎず、絶妙の味わいだ。次回はぜひ「つけ」でひもかわを食べてみたいと思った。 (写真:「花山うどん」の鶏だし南極カレーつけ) 桐生市と同じ東毛の館林市に本拠を置く「花山うどん」なら、東京でも銀座、日本橋、そして羽田空港内でもひもかわが食べられる。日本橋店で鶏だし南極カレーつけをいただいた。群馬県産赤城鶏を使ったカレーつけ汁が、タヌキを模した蓋つき容器で供される。ひもかわはくっつかないよう、水を浸した容器に入っていた。 (写真:カレーとの相性はいい) 桐生の2店に比べ、歯ごたえは控えめだ。やはり非常に長いのだが、適度な柔らかさが食べやすさの面で奏功している。カレーつけ汁はたっぷりで、麺があっさりしている分、鶏だしとカレーのスパイシーさがいい刺激になる。桐生の2店にもカレー味があり、かつおだしのいわゆるカレー南蛮の味わいだが、ひもかわには相性がいいようだ。 (写真:汁との相性が抜群) うどんとも違う、もちろんきしめんとも違う。小麦を原料とした和麺だが、その舌ざわり、味わいは事前の予想を大きく覆した。何より3店とも汁との相性が抜群だった。「幅の広いうどんだろう」というなかれ。ぜひ上州を訪れて、そのおいしさを味わってほしい。